大分地方裁判所 平成5年(行ウ)7号 判決 1998年4月27日
(第一原告)
原告
麻生正一
外一四名
(第二原告)
原告
安井正彦
外一〇名
原告ら訴訟代理人弁護士
德田靖之
同
岡村正淳
同
吉田孝美
同
河野善一郎
同
安東正美
同
佐川京子
同
古田邦夫
同
工藤隆
同
山﨑章三
同
鈴木宗嚴
同
河野聡
同
瀬戸久夫
同
荷宮由信
被告
大分県知事平松守彦
右訴訟代理人弁護士
内田健
同
河野浩
同
小林達也
同
富川盛郎
同
岡村邦彦
右指定代理人
星野敏
外八名
被告補助参加人
亀柳機動建設株式会社
右代表者代表取締役
吉良英司
右訴訟代理人弁護士
立花充康
同
三井嘉雄
同
後藤尚三
同
千野博之
同
秦文生
主文
一 原告河野広子の予備的請求を棄却し、その余の訴えをいずれも却下する。
二 その余の原告らの訴えをいずれも却下する。
三 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1(一) (主位的請求)
被告が、平成五年三月三一日付けで、被告補助参加人に対してした、別紙記載の産業廃棄物処理施設は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律一五条二項一号に規定する技術上の基準に適合している旨の認定を取り消す。
(二) (予備的請求)
被告が、平成五年三月三一日付けで、被告補助参加人に対してした、別紙記載の産業廃棄物処理施設は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律一五条二項一号に規定する技術上の基準に適合している旨の認定は無効であることを確認する。
2 被告は、被告補助参加人に対する平成四年八月二九日付別紙記載の産業廃棄物処理施設の設置についての許可を取り消さなければならない。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
(本案前の答弁)
1 本件訴えをいずれも却下する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
(本案の答弁)
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 産業廃棄物処理施設の設置
被告補助参加人は、平成四年六月二九日、被告に対し、別紙記載の産業廃棄物処理施設(以下「本件最終処分場」という。なお、本件最終処分場の施設構造の概要は別紙図面一記載のとおりである。)の設置につき、平成三年法律第九五号による改正前の廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「旧廃掃法」といい、同法を「廃掃法」という。)一五条一項の規定による届出をし、平成五年二月一一日、本件最終処分場の設置を完了した。
2 行政処分の存在
被告は、平成五年三月二六日、平成三年法律第九五号による改正後の廃掃法(以下「新廃掃法」という。)一五条四項、附則五条一項に基づき、本件最終処分場について検査を実施し、同月三一日、被告補助参加人に対し、本件最終処分場が新廃掃法一五条二項一号に規定する技術上の基準に適合していると認めた旨通知した(以下「本件適合認定」という。)。
3 本件行政処分の違法性
本件適合認定は、以下のとおり取り消されるべき違法があり、そうでないとしても重大かつ明白な違法があるものとして無効である。
(一) 適合認定の判断基準
(1) 産業廃棄物処理施設の設置者は、当該産業廃棄物処理施設について、都道府県知事の検査を受け、当該施設が新廃掃法一五条二項一号に規定する技術上の基準に適合していると認められた後でなければ、これを使用してはならないとされ(同条四項)、右技術上の基準は「一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基準を定める命令」(昭和五二年総理府・厚生省令第一号。以下「共同命令」という。)に定められており、右命令に照らすと、本件最終処分場は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令(以下「施行令」という。)七条一四号ロに掲げる安定型最終処分場として、他の基準のほか、次の基準に適合するものでなければならない。
① 地盤の滑りを防止し、又は最終処分場に設けられる設備の沈下を防止する必要がある場合においては、適当な地滑り防止工又は沈下防止工が設けられていること(共同命令二条一項柱書、一条一項三号)
② 埋め立てる産業廃棄物の流出を防止するための擁壁、えん堤その他の設備(以下「擁壁等」という。)であって、自重、土圧、水圧、波力、地震力等に対して構造耐力上安全であり、かつ埋め立てる産業廃棄物、地表水、地下水及び土壌の性状に応じた有効な腐食防止のための措置が講じられていること(共同命令二条一項三号、一条一項四号イ、ロ)
(2) さらに、右基準については「一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基準を定める命令の運用に伴う留意事項について」(昭和五三年環水企第一六号、環産第四号、環整第一七号。以下「留意事項」という。)において、以下のとおり通達され、具体化されている(留意事項Ⅲの1、4、Ⅰの4、6、7)。
① 地滑り防止工
最終処分場の地盤が地滑りをおこすと最終処分場の機能が阻害され、又、最終処分場に設けられる浸出液処理設備等の設備が沈下をおこすとこれらの設備の機能が阻害されるので、地滑り防止工を設ける必要があること。地滑り防止工としては、滑動力軽減のための排土、地表水の浸透防止工、地下水の排除設備、すべり抑制のための工作物の設置等があり、最終処分場を設置する場所が斜面、崖等である場合には地滑りの有無を、細心の注意を払って検討し、必要な地盤支持力等が十分に安全性をもって確保される工法を採用すること。
② 構造耐力
荷重及び外力として自重、土圧、水圧、地震力を採用して擁壁等の構造計算(静的設計計算をいう。)を行い、安全性を確認すること。その他の荷重及び外力としては、積載荷重、積雪荷重、風圧力があり、埋立地の状況に応じて採用すること。
③ 腐食防止
擁壁等に使用される材料には、コンクリート、鋼材、木材、土砂等があるが、これらは接触する水等の性状により腐食されることがある。広く使用されているコンクリートについては、酸、海水、塩類、動植物油類等が影響を及ぼすことが知られているので、十分注意することが必要である。
(二) 本件適合認定の内容
被告は、本件最終処分場の地滑り防止工について、地すべり等防止法に基づく地すべり防止区域等の指定がなされていないので、雨水排水施設以外の特段の地滑り防止工がなくても、問題がないとして、新廃掃法の技術上の基準に適合するとの認定を行い、同じく擁壁等についても、① えん堤の勾配が約三〇度で、五メートル毎に小段が設置され、構造耐力上安全である、② 集水面積9.03ヘクタールの処理対象雨水の流出量は毎秒2.14立方メートルであり、これに対する排水ヒューム管の通水能力は毎秒2.68立方メートルであるから、1.25倍の安全率を有する、③ えん堤下部のコンクリート擁壁は、構造計算の結果及び材質から判断して安全である、④ コンクリート擁壁付近の浸出水及び土壌は、強酸又は強アルカリ性ではなく、擁壁の腐食防止措置は不要であるとして、右基準に適合するとの認定をした。
(三) 本件適合認定の違法性
(1) 地滑り防止工に関する判断の誤りについて
① 被告の地滑り防止工に関する判断は、本件最終処分場用地が地すべり防止区域等に指定されていないから、地滑り防止工は必要がないという点に尽きている。
しかし、留意事項によれば、新廃掃法一五条二項一号に規定する「技術上の基準」は、安定型最終処分場を設置する場所が斜面、崖等である場合には、地滑りの有無を細心の注意を払って検討することを求めており、必要な地盤支持力等が十分に安全性をもって確保される工法を採用することを要求している。したがって、本件最終処分場における地滑りの危険性を細心の注意を払って検討することなく、ただ地すべり防止区域等に指定されていないという理由で地滑り防止工を不要とするのは、前記「技術上の基準」の解釈を誤るものであって違法である。
② 本件最終処分場用地の地形は別紙図面三記載のとおりであり、その特徴は以下のとおりである。
ア 本件最終処分場用地は、最高地点の標高が152.3メートル、最低地点の標高が六〇メートルであって、その高度差は92.3メートルに及び用地全体が峡谷を形成し、最低地点となるえん堤部分を底点として三方向へそそり立つ形となっている。
イ 用地内には、急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(以下「がけくずれ防止法」という。)にいう「急傾斜地」に相当する傾斜度三〇度以上の傾斜地が随所に存在し、かつ最上部にある投棄口(予定)の直下に大規模な地滑りによる崩壊跡があるほか、隣接土地にも急傾斜地が地滑りによって崩壊した場所が散見される。
ウ 本件最終処分場用地は、地域森林計画(森林法五条)の対象地域であって、かつては森林の地盤保持力によって傾斜地における地滑りや土砂崩れの発生が最小限度に保たれていたものであり、また、別紙図面二記載のとおり、右用地の急斜面の途中からえん堤部分、砂防ダムを経て、舟平川に至るまで、法定外公共物たる水路(以下「国有水路」という。)があり、常時水流が認められていたものである。ところが、右用地の森林は被告補助参加人によって伐採されてしまったため、その保水力が失われており、大量の降雨時には雨水がそのまま斜面を下り、谷部を経てえん堤部分へと集中し、激流となることが予想される。
このような地形的特徴を有する場所において、森林を皆伐して、埋立型最終処分場を設置すれば、斜面に投棄、堆積される廃棄物や斜面を流れる雨水が原因あるいは契機となって、地盤に地滑りを生じるに至ることは明らかである。
よって、このような過去の地滑り発生の事実を看過し、今後における地滑り発生のおそれが極めて大きいことを無視して、地滑り防止工が必要ないと判断した本件適合認定は明らかに違法である。
(2) 擁壁等の安全性に関する判断の誤りについて
① えん堤の安全性についての適合認定の誤り
本件適合認定は、本件最終処分場のえん堤(以下「本件えん堤」という。)の安全性について、もっぱらその勾配を基準において判断している。
ア しかし、安定型最終処分場に係る技術上の基準として、共同命令においては、擁壁等が構造耐力上安全であることが明記され、留意事項においては構造計算を行い、安全性を確認することが明示されているところ、被告は本件えん堤についてこのような構造計算を全く行うことなく、擁壁等の構造耐力上の安全性について、技術上の基準に適合するとの認定をしたものであって、その違法は明らかである。
イ 本件最終処分場の最低部に設置された本件えん堤は、約三〇度の勾配で、五メートル毎の小段が設けられているが、小段の表面にコンクリートが張られているほかは、土を固めただけのものであり、鉄筋などによる補強は全くなされていない。
そのため、本件えん堤は、水による侵食に対しては全く脆弱であり、大雨時には、付近の地形的特徴からして、用地内のみならず用地外からも雨水が激流となってえん堤部分に流れ込み、それが排水設備によって排水されず、えん堤部分に集積された場合には、本件えん堤が容易に侵食され、水圧も加わって崩壊するに至ることが明らかである。
したがって、本件適合認定は、えん堤部分の安全性の判断に際し、このような本件えん堤の脆弱性について全く看過していた点において、重大かつ明白な瑕疵があるというべきである。
ウ また、被告補助参加人の計画によれば、本件最終処分場は、埋立面積六万〇二九〇平方メートル、埋立容積九一万二〇〇〇立方メートルという大規模なものであり、完成した場合には、高さ約六〇メートル以上にまで産業廃棄物が堆積され、埋立地として造成されることとなり、本件えん堤にかかる自重、土圧は膨大なものとなって、この圧力に耐えられない限り、本件えん堤の全面崩壊の危険があることになるが、本件適合認定においては、この埋立完了時における本件えん堤の地盤としての強度計算が全く行われておらず、このような重要事項に関する判断を怠って本件適合認定の違法は重大である。
エ さらに、本件最終処分場用地は、急傾斜地でありながら、非透水性の岩盤の上に、透水性の高い軟弱な表層土が形成されているという地盤の特殊性から、大量の降雨時に、表層土に浸透した雨水が岩盤に沿って流下するために、表層土部分が剥離されて起こる斜面崩壊が頻発し、過去にも大規模な崩落を起こして、治山ダムが設置されている場所であって、今後も大量の降雨時には同様の斜面崩壊の発生が予想される。この点からも、本件えん堤の安全性審査においては、構造計算が絶対的に不可欠であったにもかかわらず、これを怠った違法は重大である。
② 排水設備の安全性についての判断の誤り
本件えん堤の水圧に対する構造耐力上の安全性を検討するに当たっては、本件えん堤の排水処理能力についての判断が必要であるところ、被告は、本件最終処分場用地の集水面積は9.03ヘクタールであり、処理すべき雨水流出量は毎秒2.14立方メートルであるから、右用地内の排水ヒューム管の通水能力(毎秒2.68立方メートル)をもって、安全であると判断している。
しかし、本件最終処分場においては、本件えん堤の下部に二か所の集水口を設け、ここで排水を浄化した上で排水ヒューム管に通水するものであるところ、本件最終処分場は急傾斜地に設けられ、脆弱な地盤の上に用地内の樹木が皆伐されて保水力が失われているため、大量の降雨があるとそのほとんどが地表面を土砂や堆積物を含んで激しい勢いで流れ落ち、これらの濁流が場合によっては集水口の通水能力を超えて集中し、本件えん堤の排水処理能力を超え、本件えん堤の崩壊事故を招く危険性がある。
原告らの試算によれば、本件最終処分場用地の雨水流出量は、右排水ヒューム管の通水能力を超えているのであり、本件えん堤はその排水処理能力の点においても欠陥施設であるにもかかわらず、被告は本件適合認定に当たって、単に排水ヒューム管の通水能力のみを問題とし、しかも本件最終処分場用地の雨水流出量について誤った計算をして、右排水ヒューム管の通水能力で安全と判断したものであり、その誤りは明白である。
なお、本件最終処分場の本件えん堤の排水処理能力については、次のとおり算定すべきである。
ア 本件適合認定があった時には、本件えん堤の天端は平面であって勾配は全くなかったところ、平成五年四月二九日に本件えん堤が決壊し、その後の復旧工事の過程で、本件えん堤表面にコルゲート側溝を設置するために勾配がつけられたものであるから、本件適合認定の適否を判断するにあたっては、このような事後の変更工事によって生じた集水区域面積に依拠することは許されない。
本件適合認定があった時には、別紙図面三のB、C両地域のえん堤天端部には何らの導水路も設置されておらず、右各天端部の地形からみて、えん堤下部のヒューム管にB、C両地域からの雨水が流入することは明らかであったから、右ヒューム管への集水面積は、少なくとも8.51ヘクタール(A、B、C三地域の面積合計)でなければならない。
イ 流出係数については、当初予定された残地森林や草地の面積によれば、林地、草地、裸地毎の流出係数の平均が0.86であり、被告の再評価における流出係数0.90と併行して用いる。
ウ 設計雨量強度(降雨強度)については、一〇〇年確率雨量毎時154.7ミリメートルとすべきである。なぜなら、本件最終処分場用地は、急傾斜の峡谷部で、しかも樹木の伐採により保水力が全く失われたため、降雨が本件えん堤部分に短時間に集中する形となるところ、本件えん堤自体には耐水能力がなく、排水管が本件えん堤の決壊を防ぐ唯一の排水施設であり、本件えん堤が決壊すれば、土砂や産業廃棄物の流出による大量の土石流が発生することになり、その重要性はコンクリートダムの余水吐に匹敵するからである。しかも、山間部は降雨量が多いから、野津原町の平均雨量を用いる場合には、余裕をもって計算すべきである。
なお、大分県林業水産部緑化推進課作成の林地開発許可申請の手引(乙第一八号証の一九、第四八号証)によれば、コンクリートダムの余水吐以外の重要構造物については、三〇年確率の降雨強度を採用すべき旨定められており、これによれば降雨強度は毎時132.3ミリメートルとされる。
エ 以上から本件最終処分場の雨水流出量を算定すると、以下のとおりである。
確率年数 流出係数 雨水流出量
(ア) 一〇〇年確率 0.90 毎秒3.29立方メートル
(イ) 三〇年確率 0.90 毎秒2.81立方メートル
(ウ) 三〇年確率 0.86 毎秒2.69立方メートル
右算定によれば、いずれも本件えん堤の排水管の処理能力毎秒2.68立方メートルを超えており、したがって本件最終処分場は、その排水処理能力の点においても、欠陥施設である。
(3) 安定型最終処分場による生活用水等の汚染の危険性について
被告は、本件適合認定に当たって、安定型最終処分場の周辺地域における地下水、生活用水等の汚染の問題について何ら審査をしなかった。
しかし、共同命令一条一項四号、二条一項三号にいう「擁壁等」は、埋め立てる産業廃棄物の流出を防止するための設備であり、また留意事項によると、安定型最終処分場において擁壁等を設ける必要があるかどうかは、埋立地の周囲が、産業廃棄物の流出しない地形であるか否かによって判断されるものである(留意事項Ⅲの4、Ⅰの5)。さらに、平成四年厚生省令第四六号による改正前の廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(以下、右改正前のものを「旧施行規則」、右改正後のものを「新施行規則」という。)一一条に定める産業廃棄物処理施設設置届出書には、放流水の水質及び水量、放流方法並びに放流先の概況を記載し、かつ最終処分場にあっては、周囲の地形、地質及び地下水の状況を明らかにする書類及び図面を添付するものとされている(旧施行規則一一条一項六号、二項一号)。
したがって、安定型最終処分場の擁壁等に関する技術上の基準は、産業廃棄物処理施設から汚染物質が外部に流出することを阻止し、地下水を含めた周辺地域の水質の汚染を防止する目的から設けられたものであり、安定型最終処分場について適合認定をする際には、処分場からの流出物質による地下水及び周辺地域の水系の汚染の危険性の有無について調査し判断することが法令上要求されている。
また、安定型最終処分場において、その廃液あるいは流出水によって周辺の水源や生活用水が汚染されていることは周知の事実である。特に本件最終処分場用地には急傾斜地が存在し、しかもその中央部に舟平川の源流の一部を形成する国有水路があり、現在でも処分場からの流水があるから、その流出水による舟平川・七瀬川水系の汚染の有無を調査し安全性の判断をすることは、本件最終処分場の適合認定をするに際しての最重要項目である。
したがって、これを調査、判断していない本件適合認定には重大かつ明白な違法があるといわざるを得ない。
(4) 被告補助参加人の脱法行為と被告の対応
本件最終処分場用地は、地域森林計画の対象地域であり、開発行為をするためには被告の許可を受けなければならないものであったが(森林法一〇条の二)、被告補助参加人は、平成三年九月三〇日、本件最終処分場の設置という開発行為の計画を秘匿したまま、伐採の届出(同法一〇条)をして、直ちに用地内の森林を伐採し、その上で、同年一〇月三一日、林地開発行為許可申請をしたものである。これは明らかな脱法行為であり、被告は右許可申請を受理した際に右脱法行為を覚知しながら、これを黙認し、平成四年八月二九日、無条件で右許可をしたものである。
また、本件最終処分場用地内の中央部に舟平川の源流の一つである国有水路が存在しており、用地内の森林がその水源の涵養に大きな役割を果たしていることは明らかであり、森林法一〇条の二第二項二号の不許可要件が問題となるところ、被告は前記林地開発行為許可の際に、右国有水路の存在を覚知していたのに、被告は本件最終処分場についての平成四年二月一七日付設置事前協議書や同年六月二九日付設置届出を受理した段階で、国有水路に対する侵害に対して何らの是正措置を求めることもしておらず、国有水路は、被告補助参加人の同年七月二二日付申請に基づき、同年一一月五日、大分県土木事務所長によって用途廃止がされた。
このように被告は、本件最終処分場の設置に係る被告補助参加人の手続違背に対して何ら規制せず、むしろその法令違背を容認する態度をとり続けてきたことが明らかであり、被告のこのような基本姿勢の誤りは本件適合認定の違法の重大性の判断に当たって斟酌されるべきである。
4 原告らの地位
(一) 別紙当事者目録記載の第一原告らは、いずれも大分市緑が丘に居住する者であり、本件最終処分場において産業廃棄物の投棄、埋立て等がされ、これに伴う右施設からの排水によって水源、水道水等が汚染された場合には、その生命、健康に直接深刻な被害を被る立場にある者である。
(二) 別紙当事者目録記載の第二原告らは、本件最終処分場の所在地である野津原町の住民であり、その居住地は別紙図面四記載のとおりであって、本件最終処分場との位置関係からみて、いずれも本件最終処分場内の土砂崩れ及び本件えん堤の決壊によって発生する産業廃棄物の流出、大規模な土石流等の事故によって、その生命、身体に直接深刻な被害を被り、またこれらの流出物や土石流等に含まれる汚染物質によって、健康被害や生活用水の汚染の被害を被る立場にある者である。
5 本件産業廃棄物処理施設の設置許可を取り消すべき事由
(一) 被告補助参加人は、本件最終処分場の設置につき、新廃掃法施行(平成三年七月四日)前の同年六月二九日付けで、被告に対し旧廃掃法一五条一項の規定による届出をし、新廃掃法附則五条一項、二項の規定により、同年八月二九日付けで、新廃掃法一五条一項の許可を受けたものとみなされた(以下「本件みなし許可」という。)者である。
(二) ところで、新廃掃法一五条の三は、同法一五条一項の許可に係る産業廃棄物処理施設の構造又は維持管理が、同条二項一号又は五項に規定する技術上の基準に適合していないと認める場合においては、都道府県知事は右許可を取り消すなどの措置をとることができることを定めているところ、同法は、産業廃棄物処理施設の設置につき右許可を受けた者は、周辺地域の生活環境の保全及び増進に配慮するものとし(同法九条の四、一五条の四)、また都道府県知事は産業廃棄物処理施設の設置の許可に当たり、生活環境の保全上必要な条件を付すことができることを規定し(同法一五条三項)、産業廃棄物処理施設周辺の生活環境を同法の保護利益として定めているのであるから、右設置許可の取消等の事由がある場合に、当該産業廃棄物処理施設が周辺の生活環境を著しく悪化させ、改善命令や使用停止命令によってはこれを有効に防止することができないような場合においては、都道府県知事は、同法一五条の三により、当該産業廃棄物処理施設の設置の許可自体を取り消すべきものである。
(三) 本件最終処分場については、本件適合認定後の平成五年四月二八日と二九日の二日間にわたって、一五五ミリメートルの降雨があったため、右施設の本件えん堤の東側約三分の一が崩壊するに至り、被告は、同月三〇日、本件えん堤を含む本件最終処分場の構造が新廃掃法一五条二項一号に規定する技術上の基準に適合していないとして、被告補助参加人に対し、本件最終処分場の使用停止及び改善を命じた(以下「本件使用停止・改善命令」という。)。右命令は、本件えん堤を含む本件最終処分場の構造が、新廃掃法一五条二項一号に規定する技術上の基準に適合していないとしてされたものであるから、本件最終処分場について、新廃掃法一五条の三に規定する設置許可取消事由が存在することは明白である。
それにもかかわらず被告は、本件使用停止・改善命令を発するにとどめ、平成五年八月一日以降は、事実上その使用を被告補助参加人に認めているものであるが、本件適合認定の違法事由からみて、本件最終処分場が周辺地域の生活環境を著しく悪化させる危険性は本件使用停止・改善命令によっては到底除去され得ないものである。したがって、本件みなし許可自体を取り消さず、単なる使用停止・改善命令にとどめた被告の措置は、同法一五条の三に基づく裁量権の行使の前提となる事実を著しく誤認し、又は要考慮事項について適切な考慮を欠いた違法があり、被告は本件みなし許可自体を取り消すべく法的に拘束されており、右取消しがされなければ、本件最終処分場の周辺地域等に居住する原告らの法益が著しく侵害されるというべきである。
6 よって、原告らは、本件適合認定について主位的にその取消しを、予備的にその無効確認を求めるとともに、被告に対し、本件みなし許可の取消しを求める。
二 原告らの本案前の主張
1 原告適格について
(一) 新廃掃法は、産業廃棄物の最終処分場について、周辺における生活用水の汚染その他の生活環境破壊事例の頻発という事態に対応し、処分場周辺における生活環境の保全及び増進等を図る趣旨に基づき、産業廃棄物処理業者及び産業廃棄物処理施設について規制の強化を図るとともに、産業廃棄物処理施設の設置者が、当該処理施設に係る周辺地域の生活環境の保全及び増進に配慮すべきこと、都道府県知事が産業廃棄物処理施設の設置許可に当たり、生活環境の保全上必要な条件を付することができることを明文化しており(新廃掃法一五条の四、九条の四、一五条三項)、これは廃棄物を適正に処理することを通じて図ろうとする生活環境の保全と国民の健康の保持という一般的公益の外に、これとは明確に区別して、処理施設に係る周辺地域の生活環境を周辺地域に居住する個々人の個別的な利益として保護することを明示したものというべきである。このことは、平成四年政令第二一八号による改正後の施行令六条一号、三条一号イ(2)において、産業廃棄物の収集又は運搬に伴う悪臭、騒音又は振動によって生活環境の保全上支障が生じないように必要な措置を講ずることを規定したことによっても裏付けられるところである。
また、廃掃法の運用に関する大分県産業廃棄物処理施設設置等指導要綱(平成三年一二月二〇日大分県告示第一二二二号、以下「大分県要綱」という。)は、「当該処理施設の設置に伴って生活環境に影響が生ずるおそれがある地域」を「関係地域」として定め、関係地域を所管する保健所等において当該処理施設の設置事前協議書を閲覧に供するものとし、設置者は関係地域で説明会を開催する旨定めている(七条二項、四項、八条一項)。原告らの居住する地域はいずれも右関係地域に指定されており、このことに照らしても、原告らが本件最終処分場の設置稼働によりその生活環境を侵害されない利益は、新廃掃法一五条四項によって法律上保護された利益に該当するというべきである。
(二) 新廃掃法一五条四項の適合認定は、完成した廃棄物の最終処分場について、地盤の滑りや設備の沈下等、更には擁壁等の不備による廃棄物等の流出などによる処分場周辺地域の生活環境の侵害を防止するために、同条二項一号に規定する技術上の基準に基づいて、処分場の安全性を審査し、その適合を判定してその結果を通知する行政処分であるところ、右技術上の基準とは、これについて定める共同命令、留意事項の各規定によれば、本件のような安定型最終処分場については、地滑り防止工の不備や擁壁等の安全性の欠如によって、廃棄物を含む処理施設の崩壊、流出等の事故のおそれを想定し、これを防止するための審査基準であり、したがって、本件適合認定がその審査基準に違背したかどうかを争う抗告訴訟の原告適格の範囲は、その廃棄物等の崩壊、流出による事故の及び得る範囲の住民ということになる。
(三) 本件最終処分場用地は、急傾斜の峡谷であり、その上地盤が脆く、地滑りないし表層崩壊の頻発地帯である。
また、本件最終処分場用地内には、舟平川の源流を構成し、常時水流のある国有水路がある上、本件最終処分場用地の最低部である本件えん堤部分から舟平川を経て七瀬川との合流地点に至るまでは、本件えん堤部分より数十メートル低くなっており、また舟平川とこれに沿った公道部分が谷部となって七瀬川との合流地点まで続いている。そのため、万が一本件最終処分場内で大規模な地滑りや本件えん堤の全面崩壊等による土石流が発生した場合には、舟平川まで流出した大量の土砂と産業廃棄物が、舟平川沿いに七瀬川合流地点まで一挙に土石流となって到達するに至る地形となっており、しかもそれが産業廃棄物の埋立てが完了したのちであれば、流出が予想される産業廃棄物の最大量は約九一万二〇〇〇立方メートルであり、これに本件最終処分場山腹や流下途中の渓床堆積土砂量を加えれば、一〇〇万立方メートルを超えるに至ることは必至である。さらに、本件最終処分場は、安定型であって遮水機能がないため、万が一産業廃棄物中に安定五品目以外の有害物質が混入していた場合に、右のような土砂崩れや本件えん堤の崩壊等による大規模な土石流が発生すれば、大量の有害物質が直接河川に到達することは明らかである。
(四) したがって、本件最終処分場について、その適合認定に当たっての安全性の審査に過誤・欠落があった場合には、大量の降雨時における土砂崩れや本件えん堤の崩壊による土砂、廃棄物の流出等の事故・災害の発生により、最大規模で約一〇〇万立方メートル以上の産業廃棄物等が土石流となって舟平川から七瀬川へと殺到するに至ることが予測され、このような事故が発生した場合には、土石流にさらされる下流域に居住する住民の生命、身体、財産に直接的に被害が及び、更には大量の有害汚濁物質の流入による生活用水の汚染の問題を生じることは明らかである。それ故、本件適合認定の取消し又は無効確認を求める原告適格を有する者は、このような被害を直接受けるおそれのある範囲に居住する住民ということになるところ、原告らは以下のとおりいずれもこのような意味での原告適格を有するものである。
(1) 第二原告らについて
第二原告らのうち、原告小野寿美子、同利光勝俊、同神野昭吉、同宮本浅吉を除く七名は、いずれも本件最終処分場の本件えん堤部分から直線距離にして一五〇〇メートル以内の範囲に居住し、かつ前記規模の土石流が発生した場合には、その流下する方向の流域に居住している者であるから、本件適合認定における安全性審査の過誤、欠落があった場合に発生が予想される前記土石流の被害を直接的に受ける可能性がある。特に原告河野広子、同安井正彦、同小出信幸の三名は、土石流の流下方向の直下に居住しており、大規模な土石流が発生すれば直撃を受ける可能性が高い。さらに、右原告ら七名の利用する揚水施設はいずれも右土石流の流下方向の流域にあるため、産業廃棄物やこれに含まれた有害物質等によって、その生活用水が汚染されるに至ることも予想される。
また、第二原告らのうち原告利光勝俊、同神野昭吉、同宮本浅吉は、いずれも七瀬川の伏流水を水源とする地下水、あるいは町営田吹給水施設からの水道水を生活用水として利用しているから、本件適合認定における安全性審査に過誤、欠落があり、本件えん堤の決壊等により大量の産業廃棄物やその中を流下した汚水が七瀬川に流入した場合には、直ちにその影響を受け、健康被害や生活用水の使用不能といった事態の発生が予想される。
したがって、第二原告らはいずれも、本件適合認定における安全性審査の過誤、欠落によって直接深刻な被害を被る地位にあり、原告適格が認められるべきである。
(2) 第一原告らについて
本件最終処分場の中央部の国有水路は、舟平川の源流の一部を形成し、舟平川は七瀬川に合流した上で大分川に至る水系を形成しており、この七瀬川と大分川の合流地点より下流には羽屋取水口があり、ここに設置された古国府浄化場から大分市民に水道水が供給されている。
第一原告らは、平時は荏隈取水口から取水され荏隈浄水場で浄化された用水を水道水として供給を受けているものの、荏隈浄水場と古国府浄水場とは、日常的に接続されており、しかも荏隈浄水場は規模が小さいため、その供給能力に問題が生じた場合には、古国府浄水場から直接第一原告らに配水されることとなっている。
したがって、第一原告らも、本件最終処分場からの排水や前記の土石流災害の発生によって舟平川・七瀬川水系が汚染された場合には、直接深刻な被害を被る地位にあり、その原告適格が認められるべきである。
2 出訴期間の徒過について
(一) 原告らは、本件適合認定の名宛人ではないから、その根拠や内容を知る余地がなく、被告から処分の通知を受けたものでもないから、出訴期間については、これを確知したときをもって起算すべきところ、原告らが本件適合認定を確定的に知ったのは、大分県情報公開条例に基づいて本件最終処分場の使用前検査結果書を入手した平成五年八月四日であり、本件取消訴訟は出訴期間を徒過したものではない。
(二) 仮にそうでないとしても、本件最終処分場に対しては、平成五年四月三〇日に本件使用停止・改善命令が発せられており、右命令は本件適合認定の安全性審査における瑕疵に起因して発生した本件えん堤の崩壊という事態に対して、本件適合認定の効力を事実上停止するものであるところ、出訴期間の進行は行政処分が効力を生じることを前提とするから、右瑕疵が是正され、本件適合認定の効力停止が解除されるまでは出訴期間も進行を停止すると解すべきである。そして、本件使用停止・改善命令における使用停止期間は、最終的に同年七月三一日までとされたから、出訴期間も右同日まで進行を停止したものであり、本件取消訴訟は出訴期間を徒過したものではないというべきである。
三 被告の本案前の主張
1 原告適格の不存在
(一) 行政事件訴訟法九条、三六条の行政処分の取消し、無効確認を求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該行政処分により自己の権利又は法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいい、右の法律上保護された利益があるというためには、処分の根拠となった行政法規が当該個人の法的利益を保護の対象としていることが必要であると解され、行政法規が専ら公共の利益保護を目的としているときには、公共の利益が守られる結果として個人の利益が守られたとしても、それは公共の利益が守られたことによる反射的利益に過ぎず、そのような反射的利益は法律上保護された利益に含まれない。
そして、法律上保護された利益かどうかの判断は、当該行政法規及びそれと目的を共通する関連規定によって形成される法体系の中において、当該処分の根拠規定が、当該処分を通して個々人の個別的利益をも保護すべきものとして位置付けられているとみることができるかどうかによって決すべきであり、その判断に際しては、当該行政法規の趣旨、目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質を考慮すべきである。
(二) 新廃掃法一五条四項の適合認定は、産業廃棄物処理施設の設置許可を受けた者が、当該許可に基づき工事を完成した施設について、許可権者が使用開始前に当該施設が同条二項の技術上の基準に適合していることを確認し、その施設の使用の禁止を解除する性質を有する行政処分であって、設置許可処分とは別個の処分である。したがって、ここで審査されるのは技術上の基準に適合しているか否かという技術的な事項のみであり、設置許可処分の場合と異なり「生活環境の保全上必要な条件」(同条三項)を付することもできない。
また、右技術上の基準については、同法一五条二項一号の委任を受けた共同命令において、安定型最終処分場においては、みだりに人が立ち入るこを防止する「囲い」、産業廃棄物の最終処分場であることを表示する「立て札」、廃棄物の流出を防止するための「擁壁等」及び地盤の滑りを防止し、又は最終処分場に設けられる設備の沈下を防止するための「地滑り防止工又は沈下防止工」が設けられていること(共同命令二条一項柱書、一号、三号、一条一項一号、三号、四号)とされ、右共同命令の運用について定められた留意事項によると、最終処分場の地盤が地滑りをおこすと最終処分場の機能が阻害され、又、最終処分場に設けられる浸出液処理設備等の設備が沈下をおこすとこれらの設備の機能が阻害されるので、地滑り防止工を設ける必要がある(留意事項Ⅲの1、Ⅰの4)とされており、これらの規定からすると、安定型最終処分場においては、埋め立てられた産業廃棄物を安全に貯留する機能のみが求められているのであり、本件技術上の基準に関する法の趣旨は、生活環境の保全及び公衆衛生の向上という公共の利益を有効に達成するという観点から、最終処分場内に貯留された産業廃棄物を貯留し、場外に流出することがないようにすることを直接の目的としており、付近住民等個々人の個別的利益を保護する趣旨を含むものではなく、右基準により付近住民が受ける防災上の利益は、正に反射的利益に過ぎないと解される。
(三) 仮に、適合認定に関する新廃掃法一五条四項が産業廃棄物処理施設周辺住民の利益を保護する趣旨を含むとしても、右住民のうち原告適格が認められる者は、産業廃棄物処理施設周辺に居住し、根拠法規の定める安全性審査に過誤があった場合に生じるおそれがある事故によって直接かつ重大な被害を受けるものと想定される周辺住民に限られるところ、原告らが主張する水質汚染の問題は、本件最終処分場の維持管理が適正に行われているかどうかの問題であって、新廃掃法一五条四項に基づく適合認定の審査対象とはならない。
また、第一原告らが主張する水道水の汚染の経路については、ほとんど発生し得ない異常時のケースを想定しているものであって、原告らが汚染の可能性を主張する古国府浄水場と第一原告らが常時給水を受けている荏隈浄水場とは異なる配水池系に属し、両配水池系を接続する配水管は常時閉鎖され、これまで古国府浄水場から第一原告らが居住する緑が丘団地に給水されたことはなく、第一原告らが本件最終処分場からの排水による水源汚染等によって直接被害を被るものとはいえない。
また、第二原告らが主張する本件えん堤の決壊等による土石流災害の危険については、仮に本件えん堤が決壊し、廃棄物、土砂等が流出し土石流が発生したとしても、七瀬川にまでそれが流下するとは考えられず、想定される土石流の規模、第二原告らの各住宅の位置等を考慮すると、右土石流が第二原告らの各住宅付近まで到達し、第二原告らが被害を受けることはあり得ないことである。さらに、右土石流が発生した場合においても、第二原告らが利用する揚水施設、水源等はいずれも土石流の被害が直接及ぶことのない地域に存在しているから、第二原告らが本件最終処分場の排出水の直接的被害を受けることはない。
(四) したがって、原告らに本件適合認定の取消し及び無効確認を求める適格はないというべきである。
2 出訴期間の徒過(本件適合認定の取消しの訴えについて)
取消訴訟は、処分等があったことを知った日から三箇月以内に提起しなければならない(行政事件訴訟法一四条一項)ところ、本件適合認定は、被告が補助参加人に対しその旨を通知した平成五年三月三一日にその効力を生じており、第三者が右適合認定の取消訴訟を提起する場合の出訴期間は、右認定が補助参加人に告知されて効力が生じたことを現実に知った日から起算すべきである。
そして、第一原告らは、同原告らで構成する大分市緑が丘連合自治会産廃対策実行委員会(以下「緑が丘委員会」という。)が同年四月二七日付け及び五月一七日付けで配付したビラやその間の新聞、テレビ等の報道を通じて、遅くとも同年五月一七日ころまでには本件適合認定がされたことを知っていた。
また、第二原告らも、同年五月七日に野津原産業廃棄物処理場反対期成会(以下「野津原町期成会」という。)会長が大分県知事宛に申入書を提出し、野津原町内において右申入れの趣旨を記載した同日付ビラを配付していることや、それ以前の新聞、テレビ等の報道内容を総合すると、遅くとも同五年七月ころまでには本件適合認定がされた事実を知っていたものである。
したがって、原告らによる本件取消訴訟の提起(平成五年八月三〇日)は、出訴期間を徒過したもので不適法なものである。
3 義務づけ訴訟の要件の欠如(本件みなし許可の取消しを求める訴えについて)
本件みなし許可の取消しを求める訴えは、いわゆる義務づけ訴訟と解されるところ、義務づけ訴訟は、① 行政庁が、当該行政処分をすべきことについて法律上覊束されており、行政庁に自由裁量の余地が全く残されていないため、第一次的な判断権を行政庁に留保することが必ずしも重要ではないと認められること、② 司法による事前審査を認めないことによって多大の損害を被るおそれがあり、事前救済の必要が顕著であること、及び③ 他に適切な救済方法がないことの要件を具備する必要がある。
原告らの右訴え(以下「本件義務づけ訴訟」という。)は、新廃掃法一五条の三が一定の要件の下に許可を取り消すか否か、改善命令や使用停止命令を選択するかについての裁量権を都道府県知事に与えていると解されることからして、前記①の要件に該当せず、また第一原告らが主張する水源汚染等の被害が生じる蓋然性は低く、第二原告らの主張する土石流災害の発生の危険性についても、それによって右原告らに直接重大な被害が及ぶ蓋然性は低いから、いずれも事前救済の必要性・緊急性はなく、前記②の要件にも該当しない。さらに本件義務づけ訴訟は、取消訴訟により十分目的を達し得るものであるから、前記③の要件にも該当せず、不適法である。
四 請求原因に対する認否
1 請求原因1、2の各事実は認める。
2(一) 同3の(一)の事実は認める。
(二) 同(二)のうち、本件最終処分場が新廃掃法一五条二項一号に規定する技術上の基準に適合していると認定したことは認め、その余の事実は否認する。
(三)(1) 同(三)の(1)の①のうち、地滑り防止工等について留意事項の定めがあることは認め、その余の事実は否認し、主張は争う。同②のうち、本件最終処分場用地が地域森林計画の対象地域であること、右用地内に国有水路が存在したことは認め、その余の事実は否認し、主張は争う。
(2) 同(2)の①うち、被告が本件適合認定において、本件えん堤につき構造計算を行わなかったことは認め、その余の事実は否認し、主張は争う。同②のうち、被告が本件適合認定において、本件えん堤に設置された排水設備が十分な排水能力を有し、水圧を荷重及び外力として採用する必要がないと判断したことは認め、その余の事実は否認し、主張は争う。
(3) 同(3)のうち、被告が本件適合認定において、本件最終処分場の周辺地域における地下水、生活用水等の汚染の有無について審査しなかったこと、本件最終処分場用地内の国有水路が舟平川の源流の一部を形成することは認め、その余の事実は否認し、主張は争う。
(4) 同(4)のうち、原告ら主張の日時に被告補助参加人からの伐採の届出、林地開発行為許可申請、国有水路の用途廃止申請、被告による林地開発行為許可、国有水路の用途廃止があったことは認め、その余の事実は否認し、主張は争う。
3 同4のうち、第一原告らが大分市緑が丘の住民であること、第二原告らが本件最終処分場の所在地である野津原町の住民であり、その居住地が別紙図面四記載のとおりであることは認め、その余の事実は否認し、主張は争う。
4 同5の(一)の事実は認め、同(二)の主張は争う。同(三)のうち、平成五年四月二八日から二九日にかけての降雨により、本件最終処分場の本件えん堤の一部が侵食を受け、被告が被告補助参加人に対し本件使用停止・改善命令を発したことは認め、その余の事実は否認し、主張は争う。
五 被告の主張(本件適合認定の適法性)
1 被告は、本件最終処分場の技術上の基準適合性のうち、「地盤の滑り及び設備の沈下の防止」及び「擁壁等」に関する技術上の基準適合性について、以下のとおり判断したものであり、本件適合認定における右判断は適法である。
(一) 地盤の滑りの防止については、本件最終処分場用地及びその周辺について地滑りの有無を検討し、次の理由から地盤の滑りを防止する必要はないと判断した。
(1) 地すべり等防止法に基づく地すべり防止区域及びがけくずれ防止法に基づく急傾斜地崩壊危険区域の指定がないこと。
(2) 地形図によれば、地すべり地に特有の等高線の変化が見られず、地すべり地ではないこと。
(3) 地質図及び地質調査結果報告書によれば、地表部の表土及び崖錐堆積物等はN値二ないし六であるが、基盤は礫混じりの固結度の高いN値五〇以上を示す非常に密な地層であること。
(4) 現場調査の結果、本件最終処分場用地や周辺地域の道路等に地すべり地帯特有の割れ目や軟弱層が見当たらなかったこと。
(二) また設備の沈下の防止についても右(一)(3)と同じ理由から、本件最終処分場に設けられる設備の沈下を防止する必要はないと判断した。
(三) 擁壁等の安全性については、「えん堤その他の設備」として本件えん堤が設置されているところ、被告は次の事情を総合判断して、本件えん堤は構造耐力上安全であると判断したものであり、本件適合認定時において別途構造計算を行わなくても、安全性の判断を怠ったことにはならない。
(1) 本件最終処分場のような砂質土の場合は、通常三〇度以上のせん断抵抗角が得られ、かつ法面の傾斜角度がせん断抵抗角よりも小さい場合には、当該法面は安定であるというのが、土木工学上の常識であること。
(2) 本件最終処分場に埋め立てられる産業廃棄物は建設廃材が主体で、コンクリート塊のかみ合わせ等により、更に大きなせん断抵抗角が得られること。
(3) 基礎地盤が十分な強度を有していること。
(4) 本件えん堤の勾配が、1対1.8(法面勾配約二九度)であり、高さ五メートルごとに小段が設けられていること。
(5) 堤体の構造は、軽石凝灰岩を用いた均一型のえん堤であること。
(6) 本件えん堤の基礎地盤は、碩南層群の凝灰岩であり、十分な支持力を有するので、基礎地盤を含むような堤体のすべりはないこと。
(7) 本件えん堤は、十分な排水能力を有する排水管が設置されており、水を溜める構造ではないので、水圧を荷重及び外力として採用する必要はないこと。
(8) 積雪地帯ではないこと及び本件えん堤の構造に照らし、積雪荷重及び風圧力を、「その他の荷重及び外力」として採用する必要はないこと。
(9) 本件えん堤下部のコンクリート擁壁は、その材質に加えて、本件最終処分場用地についての林地開発許可申請の審査において確認した構造計算結果から判断して、安全であると認められること。
2 また被告が、本件適合認定において本件えん堤の排水処理能力について安全であると判断した根拠は以下のとおりであり、これについても何ら違法性はない。
(一) 安定型最終処分場に係る新廃掃法一五条二項一号の技術上の基準の一つは、水圧に対して構造耐力上安全な擁壁等が設けられていることであるから(共同命令二条一項三号、一条一項四号)、① 擁壁等が、その内側に溜まった水の圧力(静水圧)によって、転倒し、滑り、又は崩壊するおそれがないか、② 最終処分場に溜まった水が、擁壁等、特に土えん堤に浸透し、崩壊するおそれはないかという二つの観点から、安全性を判断する必要がある。
(二) 被告は、本件最終処分場の使用前検査において、本件えん堤の排水処理能力について、次のとおり判定した。
(1) 排水処理能力の計算方法について
雨水集排水施設の計画・設計に当たっては、雨水流出量を算定し、これに対応できる水路を設計することとされ、その廃水処理能力の評価の基礎となる雨水流出量及び水路断面は、別紙「排水処理能力計算式」記載の方法で求められる。
また、安全率(排水設備の流水能力を雨水流出量で除したもの)については、地形、地質等の立地条件を十分勘案し、土地利用の状況に応じ排水能力を長期にわたり保障する見地から、1.2とされている。
(2) 流出係数について
本件適合認定においては、集水区域内を植生により分類し、それぞれの流出係数と面積を加重平均して、流出係数を0.71と算出した。
(3) 降雨強度について
降雨確率年は、林地開発許可申請の手引によれば、重要工作物について一〇〇年確率雨量、排水が集中される構造物にあっては三〇年確率雨量、その他の排水施設については一〇年確率雨量を適用することとされているところ、本件最終処分場の排水施設は、コンクリートダムや洪水調整池等以外の「その他の排水施設」であるから、降雨確率年は一〇年とした。そして、本件最終処分場の設置場所である野津原町における降雨確率年数一〇年、集水面積五〇ヘクタール以下の降雨強度については、被告補助参加人が用いた値に従い、より安全度の高い毎時120.4ミリメートルを降雨強度とした。
ここにいう右手引所定の基準は、砂防技術基準所定の降雨後到達時間最短の一〇分の値を採用しており、これは通常採用される降雨強度よりも高く、既に山間部であることを十分考慮した数値である(到達時間一〇分と二〇分における確率年と降雨量を比較すると、別紙「降雨強度比較表」のとおりである。)。
(4) 集水面積について
本件最終処分場の集水面積については、同処分場の周辺の尾根等で囲われた部分をデジタルプラニメーターで計測し、9.03ヘクタールと判定した。
(5) 雨水流出量、安全率について
右(2)ないし(4)の要素を、別紙「排水処理能力計算式」の雨水流出量算定式(ラショナル公式)に当てはめると、雨水流出量は次のとおり、毎秒2.14立方メートルとなる。
Q=1/360×0.71×120.4×9.03≒2.14(m3/sec)
そして、本件最終処分場に設置された排水ヒューム管の流水能力は、毎秒2.68立方メートルであるから、安全率は1.25となり安全であると判定した。
(三) ところで、本件最終処分場の排水処理能力について再評価した場合の試算は、別紙「ヒューム管排水計算表」のとおりであり、右再評価に当たっては次のとおり数値を設定した。
(1) 集水面積については、本件最終処分場全体の集水面積としては9.03ヘクタールであるが、本件えん堤先端部の雨水(別紙図面三記載のB、C、D区域からの集水)は、本件えん堤天端の勾配が約五パーセントであることと、導水路があることからみて、全て下流のU字側溝に流入し、本件えん堤下部に設置されたヒューム管呑み口には集水しない。したがって、排水管に流入する雨水の集水面積は、別紙図面三記載のA区域の5.58ヘクタールが正確な数値である。
(2) 流出係数については全てを裸地として、0.90を採用する。
(3) このようにして算定した安全率は、一〇年確率で1.77、二〇年確率で1.55となる。したがって、安全率はいずれにしても1.2を上回っている。
3 なお、森林法一〇条一項に基づく伐採届と同法一〇条の二第一項に基づく林地開発許可申請は併立する手続であり、林地開発行為に先行する伐採については、当該開発行為の許可を受ける必要があるが、いまだその許可を受けていない場合には、当然に同法一〇条一項の伐採届が必要となり、また、その後に林地開発許可申請が提出されたからといって、当該伐採行為が何ら脱法行為に該当するものではない。
第三 証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録の各記載を引用する。
理由
第一 争いのない事実
請求原因1(産業廃棄物処理施設の設置)、2(行政処分の存在)の各事実は、当事者間に争いがない。
第二 取消訴訟の出訴期間について
そこで、本案の判断に先立ち、原告らの本件適合認定の取消の訴えが、出訴期間を徒過したものか否かについて判断する。
一 争いのない事実に証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、本件適合認定は、平成五年三月三一日、被告から被告補助参加人に対して通知されたこと(争いのない事実、乙第一九号証の二一)、同年四月一二日、大分合同新聞夕刊に「使用前検査をクリア 野津原の産廃処分場」との見出しで、本件最終処分場が新廃掃法所定の基準をクリアし、いつでも本格操業できる状態になったとの記事が掲載されたこと(乙第二一号証)、第一原告らの一部が構成員となった緑が丘委員会においては、「三月二六日に大分県は処分場の検査を実施し業者に操業の許可を与えました。」、「業者はすでに操業を始めておりますが」などと記載した同年四月二七日付の「団地の皆さんへ」と題するビラを第一原告ら全員に配付したこと(甲第二八号証、乙第二四号証の一、原告麻生正一本人)、また同委員会は、「四月二九日早朝舟平の産廃処分場で大雨により堰堤(土止め)が決壊し大量の泥水(土砂)が七瀬川に流出しました。」、「この堰堤は(中略)三月二六日に県が行った使用前検査に合格したものです。」、「大分県は、四月三〇日に亀柳KKにたいして(中略)二カ月間の使用停止命令を出しました。」などと記載した同年五月一七日付けの「産廃だより(No.16)」と題するビラを発行し、これらが、第一原告らが所属する同自治会の全世帯で配付又は回覧されたこと(甲第二七、第二八号証、乙第二八号証、原告麻生本人)、同年四月二九日から五月一日にかけて、各報道機関によって、本件えん堤の一部決壊により、本件使用停止・改善命令が発せられた事実が一斉に報道されたこと(乙第二五号証、第三九号証の一ないし六)、同年五月七日、野津原町期成会会長飯倉定が、大分県保健環境部環境保全課産業廃棄物対策室に、被告宛の申入書を提出し、同日ころ、原告安井正彦と連名で、右申入書の文面を記載したビラを第二原告らを含む野津原町民に配付したこと、右申入書には、本件えん堤の一部決壊は被告補助参加人の杜撰な設計施工と、使用前検査を形式的に済ませた大分県に責任があるとの記載があること、緑が丘委員会と野津原町期成会が、本件最終処分場の設置、操業等に対する反対運動において協力関係にあったこと(乙第三六ないし第三八号証)が認められる。
二 行政事件訴訟法一四条一項にいう「処分があったことを知った日」とは、本件のように、行政処分の名宛人でなく、右処分を告知されない第三者が取消訴訟を提起する場合においては、処分が名宛人に告知され、効力を生じたことを第三者が現実に了知した日と解するのが相当である。
そして、前認定の事実によれば、第一原告らは遅くとも平成五年五月一七日ころまでに、第二原告らも遅くとも同年五月七日ころまでには、本件最終処分場について使用前検査が実施され、その使用、操業が可能となったという認識を有していたものと認められるから、そのころには、本件適合認定が被告補助参加人に通知され、効力を生じたことを知っていたものというべきである。
そうすると、本件適合認定の取消の訴えは、原告らが本件適合認定のあったことを知った日の翌日から起算して三か月を超えた後の平成五年八月三〇日に提起されたものであるから、出訴期間を徒過した不適法な訴えというべきである。
三 なお、原告らは、大分県情報公開条例に基づいて本件最終処分場の使用前検査結果書を入手し、本件適合認定を確定的に知った平成五年八月四日の翌日が出訴期間の起算日であると主張するが、前記認定判断に照らし採用することができない。
また原告らは、本件使用停止・改善命令によって本件適合認定の効力は停止されたものであり、使用停止期間が満了した平成五年七月三一日まで出訴期間の進行も停止すると主張する。しかし、本件適合認定が、本件最終処分場の使用開始前に、使用前検査を行い、右処分場が新廃掃法一五条二項一号に規定する技術上の基準に適合していることを確認することによって、設置者(被告補助参加人)に対し、同処分場の使用の禁止を解除する効果を生じる処分であるのに対し、本件使用停止・改善命令は、右処分場の使用開始後において、同処分場の構造又はその維持管理が同法一五条二項一号又は五項に規定する技術上の基準に適合していない事態が生じたため、設置者に対し必要な改善及び使用停止を命じることによって、使用停止期間中の右処分場の使用を禁止し、必要な改善を義務づける効果を有するものであって、両者は処分の時期、対象、法律効果を異にする別個独立の行政処分であるから、本件使用停止・改善命令が本件適合認定の効力を停止させ、その取消訴訟について出訴期間の進行を停止させるという効果を有するものではない。したがって、原告らの主張は採用することができない。
第三 原告適格について
次に、原告らが本件適合認定の無効確認訴訟の原告適格を有するかどうかを判断する。
一 原告らの「法律上の利益」の有無
1 「法律上の利益を有する者」の範囲
行政事件訴訟法九条、三六条は、取消訴訟、無効等確認訴訟の原告適格について規定するが、右各条にいう当該処分の取消し、無効等確認を求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利又は法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消、無効等確認訴訟における「法律上の利益を有する者」に当たるというべきである。そして、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規の趣旨・目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮し、当該行政法規及びそれと目的を共通する関連法規の関係規定によって形成される法体系の中において、当該処分の根拠規定が、当該処分を通して右のような個々人の個別的利益をも保護すべきものとして位置付けられているかどうかによって判断すべきである(最高裁昭和五七年(行ツ)第四六号平成元年二月一七日第二小法廷判決・民集四三巻二号五六頁、同平成元年(行ツ)第一三〇号同四年九月二二日第三小法廷判決・民集四六巻六号五七一頁、同平成六年(行ツ)第一八九号同九年一月二八日第三小法廷判決・民集五一巻一号二五〇頁参照)。
右の見地に立って、本件適合認定の無効確認の訴えについて、原告らが「法律上の利益を有する者」に当たるかどうかを判断する。
2 使用前検査に基づく適合認定の取消し、無効等確認を求めるについて法律上の利益を有する者の範囲
(一) 新廃掃法一五条四項は、同条一項の産業廃棄物処理施設の設置の許可を受けた者(同法附則五条一項により右許可を受けたとみなされる者を含む。)は、当該産業廃棄物処理施設について、都道府県知事の検査を受け、当該施設が同条二項一号に規定する技術上の基準に適合していると認められた後でなければ、これを使用してはならないとしており、これに違反した場合の罰則も定められている(同法二七条一号)。そして、新廃掃法一五条二項一号は、同条項に規定する技術上の基準のうち、産業廃棄物の最終処分場については、総理府令、厚生省令で定めるものとしており、右委任に基づいて定められた共同命令においては、産業廃棄物の最終処分場についての右技術上の基準の一部として、① 地盤の滑りを防止し、又は最終処分場に設けられる設備の沈下を防止する必要がある場合においては、適当な地滑り防止工又は沈下防止工が設けられていること、② 埋め立てる産業廃棄物の流出を防止するための擁壁、えん堤その他の設備であって、自重、土圧、水圧、波力、地震力等に対して構造耐力上安全であり、かつ埋め立てる産業廃棄物、地表水、地下水及び土壌の性状に応じた有効な腐食防止のための措置が講じられているもの(以下「擁壁等」という。)が設けられていることが規定されている(共同命令二条一項柱書、二号イ(2)、(3)、三号、四号、一条一項三号、四号イ、ロ)。
産業廃棄物処理施設においては、産業廃棄物の最終処分等が行われるので、施設の構造上の安全性・維持管理の確実性等が確保されていなければ、産業廃棄物が安定化・無害化されず、また施設そのものが当該施設に係る周辺地域の生活環境の保全(新廃掃法一条、一五条の四、九条の四参照)に支障を生じさせるおそれもある。そのため、新廃掃法一五条一項、二項一号では、産業廃棄物処理施設の設置について許可にかからしめるものとし、右許可の要件として前記技術上の基準に適合していることが規定され、設置許可の段階で施設の構造上の安全性等について十分な審査を行うこととされたが、これに加えて、設置許可のされた産業廃棄物処理施設についても、使用前検査を義務づけ、右検査の段階においても前記技術上の基準に適合していると認められ、施設の構造上の安全性等について確認された産業廃棄物処理施設についてのみ使用を認めることとして、当該施設に係る周辺地域の生活環境を保全する見地からみて安全性、信頼性の高い施設の設置が円滑に行われるようにしたものである。
そして、産業廃棄物の最終処分場の使用前検査に基づく適合認定の技術上の基準として、共同命令の前記各規定が設けられた趣旨は、最終処分場の地盤の滑りや浸出液処理設備等の沈下を防止するために必要な技術上の措置がされず、あるいは埋め立てる産業廃棄物の流出を防止するのに必要な擁壁等の構造耐力上の安全性や腐食防止措置が欠如しているような場合には、産業廃棄物を埋め立てて貯留し、自然界の代謝機能を利用して安定化・無害化を図るという最終処分場ないしその設備の機能が阻害されるとともに、埋め立てられた産業廃棄物の流出その他の災害が発生して、当該施設に係る周辺地域の生活環境の保全に支障を生じさせるのみならず、人の生命、身体等の安全が脅かされるおそれがあることにかんがみ、それらの事態が発生することを防止するために、使用前検査の段階で、当該施設の構造上の安全性を十分審査し、前記技術上の基準に適合した構造を備えた施設についてのみ、産業廃棄物の最終処分場としての使用を認めることとしたものであると解するのが相当である。
(二) そして、産業廃棄物の最終処分場の使用前検査の際に、当該施設の構造が新廃掃法一五条二項一号及びその委任を受けた共同命令の前記各規定の技術上の基準に適合しているかどうかの審査、なかんずく地滑り防止工・沈下防止工の設置の必要性・安全性、擁壁等の設置の必要性・安全性などに関する審査に過誤があった場合、設置場所の地形が斜面・崖等であったり、地盤が軟弱であるときには、地滑りに伴う当該施設内外の地盤の崩落等の事故が発生するほか、浸出液処理設備、擁壁等の設備の沈下が発生して、産業廃棄物を安全に貯留する機能が低下し、更に擁壁等に構造上の欠陥があるときには、貯留された産業廃棄物の圧力等によって擁壁等が損壊し、産業廃棄物の流出等の事故が生じるおそれがあり、これらのような事故等が起きたときは、当該施設に近接する地域に居住する住民の生命、身体等に直接的かつ重大な被害が及ぶことが予想される。
産業廃棄物の最終処分場について、新廃掃法一五条一項の設置許可の申請がされた場合に、災害防止のための計画が定められていることが要件とされ、右災害防止のための計画として産業廃棄物の流出の防止に関する事項その他最終処分場に係る災害防止に関する事項を定めるとされていること(新廃掃法一五条二項二号、新施行規則一二条の三)、安定型及び管理型最終処分場(施行令七条一四号ロ、ハ)の維持管理の技術上の基準として、埋立地の外に産業廃棄物が流出しないように必要な措置を講じ、また擁壁等を定期的に点検し、擁壁等が損壊するおそれがあると認められるときは、速やかにこれを防止するために必要な措置を講ずるとされていること(新廃掃法一五条五項、共同命令二条二項柱書、二号、三号、一条二項一号、七号)などは、右各最終処分場について前記のような事故が発生し、施設に近接して居住する住民らに前記のような被害が及ぶ可能性があることを前提として、かかる被害を防止する趣旨をも含めて規定されたと解される。
(三) また、共同命令に定める技術上の基準についての運用通達である留意事項において、地滑り防止工又は沈下防止工の工法等について具体的な規定(地滑り防止工としては、滑動力軽減のための排土、地表水の浸透防止工、地下水の排除設備、すべり抑制のための工作物の設置等、沈下防止工としては、土質安定処理、地盤置換、杭基礎、ケーソン基礎等。)を設け、最終処分場を設置する場所が、斜面、崖等である場合には地滑りの有無を、軟弱地盤等である場合には地下の有無を細心の注意を払って検討し、必要な地盤支持力等が十分に安全な工法をもって確保される工法を採用するとし、また埋立地の周囲が産業廃棄物の流出しない地形である場合は、擁壁等を設ける必要がないとしたこと(同Ⅲの1、4、Ⅰの4、5)などは、当該処分場周辺に居住する一定範囲の住民に地滑り、産業廃棄物の流出等による生命、身体等への直接かつ重大な被害が生じる危険性を前提として、前記新廃掃法一五条四項、同条二項一号及びその委任を受けた共同命令の前記各規定が、このような被害を防止する趣旨を含んでいるとの解釈を裏づけるものというべきである。
(四) 以上のような、新廃掃法一五条四項、同条二項一号及び共同命令の前記各規定の趣旨・目的、右各条項が使用前検査に基づく適合認定を通して保護しようとしている利益の内容・性質等にかんがみれば、右各条項は、施設の構造上の安全性について確認された産業廃棄物処理施設についてのみその設置を許可し、またその使用を認めることによって、当該施設に係る周辺地域の生活環境の保全という一般的公益の実現を図るとともに、当該施設の近接地域に居住し、当該施設の構造上の欠陥に起因する地盤の滑り、産業廃棄物の流出などの事故による被害が直接的に及ぶことが予想される範囲の住民の生命、身体等の安全を、個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解すべきである。
そうすると、産業廃棄物の最終処分場について、地盤が斜面、崖等であったり、軟弱地盤等であるため、地盤の滑り及び設備の沈下を防止する必要がある場合、当該施設の周囲の地形等からみて、産業廃棄物等の流出などの事故を生じるおそれがある場合などに、右地盤の滑り、設備の沈下又は産業廃棄物の流出等の事故による直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者は、当該施設についての新廃掃法一五条四項による適合認定の取消し、無効等確認を求めるにつき法律上の利益を有する者に当たるというべきである。
(五) この点、原告らは、新廃掃法は、産業廃棄物処理場周辺における水質汚染の事例が多発したことに対応し、処分場周辺の生活環境の保全及び増進等を図る趣旨に基づき、産業廃棄物処理業者及び産業廃棄物処理施設についての規制を強化したほか、産業廃棄物処理施設の設置について、設置者が周辺地域の生活環境の保全等に配慮すべきこと、都道府県知事による設置許可の際に生活環境の保全上必要な条件を付することができることを明文化しており(新廃掃法一五条の四、九条の四、一五条の三項)、処理施設に係る周辺地域の生活環境を周辺地域に居住する個々人の個別的な利益として保護する趣旨であることを明示したものであると主張する。
しかし、設置許可及び使用前検査に係る技術上の基準に違反した産業廃棄物処理施設の使用により、前記のとおり直接的な被害を被る範囲の住民以外に、原告らの主張する新廃掃法による各規制によって、具体的な生活環境上の利益を受ける周辺地域の住民の範囲を個別的に特定することは困難であるし、設置者の周辺地域への配慮の責務及び生活環境保全上の条件の付与などの各規制についても、新廃掃法及び施行令、新施行規則その他の関係法令において、具体的な規制内容・規制基準等についての規定はない。したがって、新廃掃法の前記各規制によって、同法一五条四項が、当該施設の周辺地域の住民のうち、前記の直接的な被害を被る範囲の住民以外の住民についても、その生活環境上の利益を個別的に保護する趣旨を含むものであると解することはできず、原告らの主張は採用することができない。
(六) また原告らは、大分県要綱が、「当該処理施設の設置に伴って生活環境に影響が生ずるおそれがある地域」の「関係地域」としての指定、関係地域を所管する保健所等における当該施設の設置事前協議書の閲覧、設置者による関係地域での説明会の開催等を定め、原告らの居住する地域がいずれも右関係地域に指定されていることから、原告らが本件最終処分場の設置稼働によりその生活環境を侵害されない利益は、新廃掃法一五条四項によって法律上保護された利益に該当するというべきであると主張する。
確かに、大分県要綱には原告ら主張の各規定があり、原告小野寿美子を除くその余の原告らの居住地域がいずれも右要綱七条二項に基づき右関係地域に指定されている(甲第五号証、乙第二号証、第五号証の二、第一四号証の一、弁論の全趣旨)。しかし、大分県要綱は、産業廃棄物の処理施設の設置及び県外産業廃棄物の搬入に係る事前協議等に関し必要な事項を定めることにより、産業廃棄物の適正な処理を推進し、もって生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図るという専ら一般的な公益の実現の目的から定められたものであり(同要綱一条)、右目的を実現するための規制を定めた各規定においても、新廃掃法一五条四項、二項一号の委任を受けた規定はもちろん、設置しようとする当該施設の構造上の安全性等について、共同命令の前記各規定のような具体的内容を定めた規定は特に見当たらない(甲第五号証、乙第二号証)。したがって、前記大分県要綱における関係地域の指定等の各規定をもって、新廃掃法一五条四項が右関係地域に居住する住民らの個別具体的利益を保護する趣旨を含むものと解することはできず、右関係地域への指定を根拠に原告らの法律上保護された利益を認めることもできない。
(なお、平成九年法律第八五号による改正後の廃掃法においては、廃棄物処理施設による環境汚染、地域紛争に対応すべく、多くの都道府県で要綱等に基づいて大分県要綱と同様の独自の設置手続を定めている経過を踏まえ、施設の設置者に対する生活環境調査の義務づけ、設置計画等の申請事項としての位置づけ、申請書等の告示・縦覧、地域住民等の意見聴取の手続、設置許可要件としての地域の生活環境への適正な配慮等の規定を設けているが(同法一五条二項六号、三項ないし六項、一五条の二第一項二号など)、これらの規定からも、当該地域に係る生活環境の保全を、個別具体的な利益として保護する趣旨まで含んでいるとは解されない。)
3 原告らの本件適合認定の無効確認を求める「法律上の利益」の有無
右に判断したところに従い、本件適合認定の無効確認訴訟について、原告らが「法律上の利益を有する者」に当たるかどうか検討する。
(一) 本件最終処分場内の地盤の滑り、本件最終処分場からの産業廃棄物等の流出などによる事故の可能性について
(1) 争いのない事実に、証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、本件適合認定の当時、本件最終処分場用地及びその周辺部の状況は、次のとおりであったことが認められる。
① 地形、形状等
本件最終処分場は、標高約一五〇メートルの河岸段丘の南斜面に形成され、尾根によって囲まれた自然の開析谷を利用して設置されたもので、東西約三八〇メートル、南北約二八〇メートルの用地内にある。
同処分場用地及びその周辺部の地形は、別紙図面三記載のとおり、南端部を起点として、三方向に樹枝状に谷部が展開していく地形を形成しており、北端部、西端部及び東端部と南端部との間には、いずれも八〇メートル前後の標高差がある。
同用地内には、がけくずれ防止法二条一項にいう「急傾斜地」に該当する傾斜度三〇度以上の箇所が多数存在するほか、北方の投棄口から、本件えん堤を経て治山ダムに至るまでの国有水路周辺は、標高差約八〇メートルにわたって、緩やかな下りの傾斜地を形成している。また、本件最終処分場用地は、別紙図面三のとおり、南西側、北西側の一部を除いてほぼ全域が雨水等の集水域となっている。
本件最終処分場の投棄口直下には、大きな崩壊跡があり、本件えん堤下部より約二〇メートル南方に谷を下り降りた本件最終処分場用地の南端付近に、昭和四九年ころ設置された右治山ダム(砂防ダム)がある。
また、本件最終処分場の北東部の谷頭(谷の壁面)を切り開いて、産業廃棄物搬入用の投棄道路が、未舗装の状態で設置されている。
(甲第三、第九号証、乙第三号証の二の六、二五、第一九号証の五、第四三号証、証人生野智城、弁論の全趣旨)
② 地盤、地質等
本件最終処分場内には、(イ) その地表部のほぼ全域にわたって、層厚0.40ないし0.90メートル内外の粘性土及び砂質土より成る表層土に覆われた柔らかい地層があり、(ロ) その下層の一部に、礫混じり砂より成る層厚約1.6メートルの堆積土で、N値(標準貫入試験で測定する打撃回数)約2.8、相対密度は「ゆるい」の範囲にある地層が存在するほか、(ハ) 右(イ)、(ロ)の地層の下層に、木片、腐食物等が混入し、含水が多く、砂粒子が細ないし粗砂より成る層厚一ないし2.40メートルの堆積土(粘土質砂・粘土混じり砂)で、N値1.5ないし6.0、相対密度が「非常にゆるい」ないし「ゆるい」の範囲にある地層が存在する。
右(ハ)の下層に、(ニ) N値が五〇以上で相対密度が「非常に密な」の範囲にある、層厚7.10ないし一〇メートルの礫混じり砂・固結砂と固結砂礫の互層より成る碩南層群、(ホ) N値が一四ないし三一で相対密度が「中位」ないし「非常に密な」の範囲にある、層厚9.20ないし一〇メートルの凝灰岩より成る碩南層群が存在する。
右(イ)の表層土は、固結度が弱く、透水性が高い上に、前記のとおり急傾斜地が多数存在する本件最終処分場用地内の傾斜面に形成されている。その上、本件最終処分場用地内の森林が被告補助参加人によって伐採されて右表層土部分が露出したため、降雨時の雨水等の浸透によって、相対的に固結度が高く透水性の低い下層部分の上を滑り落ちる形で表層土が剥離して崩落し易くなっており、現に、本件最終処分場内の治山ダム東側斜面に表層崩壊部分が、処分場外の残地北西部斜面に、地すべり性ブロック及び表層崩壊部分が、それぞれ存在していた。
(甲第三号証、乙第一八号証の三〇、第一九号証の二)
③ 森林の存在とその伐採
本件最終処分場用地には、かつて森林法五条に基づく地域森林計画の対象となっている民有林が存在していた。そこで、被告補助参加人は被告に対し、本件最終処分場の設置に先立ち、右民有林について、平成三年九月三〇日、森林法一〇条一項に基づく伐採届を提出し、同年一一月一日より右民有林の伐採行為に着手した。それと併せて、被告補助参加人は被告に対し、同年一〇月三一日、本件最終処分場用地を含む六万二一九一平方メートルの林地について、同法一〇条の二第一項に基づく開発許可申請をし、平成四年八月二九日、被告から右申請に係る林地開発許可がされた。このようにして、本件最終処分場用地内の民有林はほぼ全て伐採された(争いのない事実、甲第三、第九、第六二号証、乙第三号証の二の三二、第一八号証の五四、五五、第三八号証、弁論の全趣旨)。
本件最終処分場用地は、固結度が強く透水性の低い地盤の上に、透水性が高く薄い表層土が乗っている二層構造の地盤であるところ、右森林の保水機能や雨水の蒸発散機能、地盤保持力(根張り)による表土流出防止機能によって、表層崩壊が最小限度にとどめられていたが、右のとおり、本件最終処分場の設置の際に右森林が伐採された結果、これらの機能は失われた(甲第三号証)。
④ 国有水路の存在
別紙図面二記載のとおり、本件最終処分場の設置以前には、用地内の中央の峡谷部を起点とし、本件えん堤部分から治山ダムを経て舟平川に至る国有水路が存在していたところ、右水路敷には表流水が認められないが、施設下部の水路より舟平川に至るまでは少量の水流があり、舟平川を経て七瀬川との合流地点に至っていた(なお、被告補助参加人は、平成四年七月二二日、建設省所管国有財産取扱規則所定の国有財産部局長である被告に対し、本件最終処分場用地内の右国有水路の用途廃止を申請し、同年一一月五日に右用途廃止がされ、平成五年三月三一日、被告補助参加人が国から右敷地の払下げを受けた。)(争いのない事実、乙第三号証の二の二九、三一、五八、第三八号証)。
そして、本件最終処分場の最も底部である本件えん堤の下端から、舟平川と七瀬川との合流地点までは、約二〇メートルの標高差があり、緩やかな下り斜面を形成するとともに、舟平川及び本件最終処分場の南側の公道に沿って、谷状の地形が形成されている(乙第五一号証の一ないし三、弁論の全趣旨)。
(2) また、本件適合認定当時の本件最終処分場の埋立処分計画は次のとおりであった。
① 埋立処分地面積 六万〇二九〇平方メートル
同容積 九一万二〇〇〇立方メートル
埋立完了予定年数 約一四年
② 埋立方法
北側の施設入口部より産業廃棄物の搬入を行う。
埋立の工法としては、別紙図面五記載のとおり、用地内の開析谷の最下部に本件えん堤を設置し、本件えん堤北側底部から、一対1.8(高さ一に対して底辺長1.8、約二九度)の勾配で、高さ五メートルごとに幅1.5メートル又は三メートルの小段を設ける形で切土を行い、盛土材料としては破砕石、軟岩等を補充して強度を図る(これは大分県林業水産部緑化推進課作成の災害防止に関する基準にも適合している。)。そして、サンドイッチ工法(投棄した廃棄物を水平にならし、ある程度の層厚に対して覆土を行うことを繰り返して、次々と積み重ねて埋め立てる方式)により、標高一三〇メートルにまで埋め立てていく。埋立ての際には転圧も常時行う。また埋立完了部分については、廃棄物の上に一メートルの覆土をする。
(3) しかし、本件最終処分場用地は、急傾斜地の多数存在する起伏の多い地形であるため、一定の面積をもってサンドイッチ構造を保つことや、土木重機による転圧をかけることが困難な状況にある。また、高い斜面に盛土をすることにより、長大な法面が形成され、既設堤体に大きな荷重がかかるため、盛土の安定に対して十分な注意を払う必要があるほか、建設廃材、廃プラスチック類等の産業廃棄物は、工学的性質が不明であり、適切な投棄場所の選定をしなければ、斜面安定上問題を生じることになる。
さらに、本件最終処分場は、中央部が谷部を形成しており、降雨時には雨水等が右谷部に集中し、本件えん堤を経て治山ダム、舟平川方面へと流下する地形となっているところ、本件適合認定があった当時には、右雨水等を処理する排水設備として、別紙図面六記載のとおり、本件えん堤の堤体下部のヒューム管一本と、堤体上部両側のU字型フリューム(側溝)などが設置されていたが、右排水設備だけでは、サンドイッチ工法による埋立ての進行に従って、排水機能が十分発揮されなくなる危険性がある。
(甲第五八号証、乙第六号証の六、第一八号証の一、七、一九、二〇、二一、二五、四五、五五、第一九号証の一二、一三、一七、一八、証人中川鮮、弁論の全趣旨)。
(4) また、本件適合認定後、本件最終処分場及びその周辺部について、次のとおりの事態が発生した。
① 平成五年四月二八日から二九日にかけて、本件最終処分場用地に降り続いた豪雨のため、本件えん堤の東側のU字型側溝付近が、幅約四メートル、長さ約二五メートルにわたって決壊し、本件最終処分場内谷部に集積した雨水が処分場内の表層土、地盤軟弱部分の土砂とともに処分場外に流出し、濁水が治山ダムを越えて舟平川を流れ、七瀬川との合流地点にまで達する事態が生じた(争いのない事実、甲第三号証、乙第二五号証、第二六号証の一、第三一号証の三、弁論の全趣旨)。
② また、本件えん堤が復旧されたのちも、同年九月四日ころの台風、降雨により、本件最終処分場の北部の投棄口近くにあるコンクリートで補強された被告補助参加人の事務所の直下部分が崩壊したほか、当時、本件最終処分場用地の北西部の境界と幅約五メートルの土地を隔てた南春信の自宅敷地の直下の斜面部分や、南部斜面、西部において斜面崩壊が発生した(甲第九号証、顕著な事実)。
南宅の敷地においては、その直下の斜面が切り開かれて、搬入用道路が設置され、搬入用車両が往来しており、上部地盤である同人宅の敷地南側の地盤に影響が生じることが予想されたため、右斜面崩壊に先立つ同年七月から八月にかけての時期と、右崩壊後の平成六年二月から三月にかけての時期において、同所に伸縮計が設置され、地盤変動が測定されたが、その結果によれば、降雨量と地盤変動量が比例し、雨量が多いほど、地盤が本件最終処分場内へ崩落する方向に変動することが明らかにされている(甲第三、第九号証)。
右事務所及び南宅の敷地は、いずれも本件最終処分場用地を形成する谷部の天端付近にある(弁論の全趣旨)。
(5) ところで、本件適合認定の当時、本件最終処分場用地は、南端を除いた三方向を、急傾斜地を多数含む傾斜地によって囲まれた谷状の地形の土地であったところ、谷の部分に盛土をしても、いわゆる谷化の現象により、谷頭侵食が起こり、元の谷に戻ることは、土砂災害対策上よく知られた現象である(甲第三号証)。
また、地盤面においては、密度がゆるく透水性の高い表層土が、固結度が高く透水性の低い碩南層群の上に載っている二層構造であり、雨水が多くなれば表層土が流動化し、急傾斜地が多いこと、処分場用地の大部分が集水域であること、森林が伐採されてほぼ裸地となり、保水機能、地盤保持機能等が失われたことと相まって、表層崩壊が発生し易い状態にあった。現に、本件適合認定後、降雨時の雨水の流入によって表層部の斜面崩壊が散発し、また谷頭部の地盤が処分場中央部へと崩落する方向への変動を生じている。
そして、本件最終処分場は、サンドイッチ工法により、九一万二〇〇〇立方メートルに及ぶ産業廃棄物を埋め立て、処分完了時には斜面上に長大な法面が形成されることになるが、本件最終処分場用地の地形、地盤、地質、埋め立てられる産業廃棄物の工学的性質、流入する雨水の浸透、埋立ての進行に伴う排水処理設備の機能の低下等の事情からみて、斜面の安定の維持には相当な困難を伴うものであると考えられる。
さらに、本件最終処分場中央部の国有水路の敷地から処分場外の治山ダム、同所付近の水路を経由して舟平川・七瀬川の合流地点に至るまで、谷状の緩やかな下り坂の地形を形成しており、本件適合認定後の本件えん堤の一部決壊の際には、土砂を含む雨水が本件最終処分場外に流出し、治山ダムを越えて舟平川・七瀬川の合流地点にまで到達している。
これらの事情を総合すると、本件適合認定における本件最終処分場の埋立計画では、埋立ての途上又は埋立ての完了後において、埋立済みの産業廃棄物を含む地盤の滑りによる崩落、更には右地盤の崩落に起因する産業廃棄物を含む土砂の流出等の事故を生じる可能性を否定することができないというべきである。
(二) 本件最終処分場の地盤の崩落等による直接的な被害の及ぶ範囲について
右のとおり、本件最終処分場については、埋立済みの産業廃棄物を含む地盤の滑りによる崩落等の事故が生じる可能性がある。
しかし、右事故の可能性から、本件適合認定の取消訴訟等の原告適格を基礎づけるためには、右事故によって、その居住場所に大規模な地盤崩壊等が生じ、自らの生命、身体が脅かされるという直接的な被害が及ぶことが必要であると解するのが相当であるところ、このような被害の及ぶ範囲は、本件最終処分場及びその周辺地域の地形、地質等からみて、右処分場用地の境界から数メートルないし数十メートルの範囲の至近距離の土地(例えば前記南宅の敷地)に限られ、本件最終処分場用地を形成する谷部の天端より外部に及ぶことはないと認められる。そして、原告らのうち、右のような本件最終処分場の隣接地ないし至近距離に住んでいる者は存在しない。
したがって、本件最終処分場の地盤の滑りによる崩落の可能性のみからは、原告らの原告適格を認めることはできない。
(三) 本件最終処分場からの産業廃棄物等の流出事故による直接的な被害の及ぶ範囲について
(1) また、前認定のとおり、本件最終処分場の埋立計画では、産業廃棄物や土砂等の流出等の事故を生じる可能性を否定することができないのであるから、原告らの原告適格の有無の判断に当たっては、原告らの居住する地域が、右流出事故により直接的な被害を受けることが予想されるかどうかを検討しなければならない。
ところで、このような流出事故は、特に台風などによる大量の降雨時において、本件えん堤の排水処理能力が不足している場合に、これを超える規模の雨水が、本件えん堤及び埋め立てた産業廃棄物から成る堤体に浸透し、堤体内部の間隙水圧が飽和状態となって、本件えん堤が決壊した場合に生じることが予想され、このような場合には、雨水、土砂、産業廃棄物等が一体となった土石流が出現するに至ると考えられる。過去の土石流災害の実態調査の結果において、土石流は渓床勾配二〇度以上の地域で発生するとされているところ、本件最終処分場の埋立完了時の最終天端から本件えん堤天端までの平均勾配が約二五度であることからも、右土石流災害発生の危険性が裏づけられるというべきである(甲第三、第九号証、乙第四九号証、第五一号証の三、証人中川、弁論の全趣旨)。
そこで、原告らの居住する地域が、産業廃棄物等の流出事故が仮にあった場合に、直接的な被害を受けるものと予想されるかどうかについては、本件最終処分場の種類、規模、右処分場用地及び周辺部の地形、予想される流出事故による土石流災害等の規模、流下範囲、原告らの居住する地域の状況、本件最終処分場との位置関係等の具体的な諸条件を考慮に入れた上で、社会通念に照らし、合理的に判断すべきである。
(2) 本件最終処分場の種類、規模
本件最終処分場は安定型産業廃棄物(廃プラスチック類、ゴムくず、金属くず、ガラスくず及び陶磁器くずで事業活動に伴って生じたもの、建設廃材のいわゆる「安定五品目」、施行令六条一項三号イ(1)ないし(6))の埋立処分の用に供される安定型最終処分場(施行令七条一四号ロ)であり、埋立面積六万〇二九〇平方メートル、埋立容積は九一万二〇〇〇立方メートルに及ぶものである(争いのない事実、乙第一八号証の一)。
遮断型最終処分場(施行令七条一四号イ)や管理型最終処分場(同ハ)が、それぞれ有害な特別管理産業廃棄物又は右特別管理及び安定型産業廃棄物以外の産業廃棄物を埋立処分の対象とし、設置許可及び使用前検査に基づく適合認定のための技術上の基準として、公共の水域及び地下水の汚染を防止するために、遮水工や浸出液処理設備、外周仕切設備等の設置、埋立場所の制限(施行令六条の四第一項三号ロ、共同命令二条一項二号イ、四号、一条一項五号参照)などの規制措置が定められているのと異なり、安定型最終処分場については、安定五品目が土壌、砂礫などと同様に自然界にあって安定しており、環境を汚染しないとされることから、設置許可及び使用前検査に基づく適合認定の段階では、前記技術上の基準として、公共の水域及び地下水の汚染を防止するための具体的措置が義務づけられていない(顕著な事実)。
(3) 本件最終処分場用地及び周辺部の地形
本件最終処分場の南端の治山ダム下流点から舟平川との合流点に至る区域、舟平川との合流点から七瀬川との合流点に至る区域は、それぞれ国有水路の敷地や、舟平川を最低部とする谷部を形成する緩やかな下り坂であり、処分場の南端から南西方向への谷部が、舟平川との合流点で南東方向に屈曲し、七瀬川との合流点付近が右谷部の出口となる地形になっている(乙第一号証の四、第五一号証の一ないし三)。
(4) 土石流の規模、流下範囲
本件最終処分場からの産業廃棄物の流出等の事故が生じた場合に予想される土石流の規模、流下範囲等については、次のとおり認められる。
① 土石流とは、水と土砂や石礫から成る混合物が一体の流体となり、かなりの速度で流下運動する土砂移動現象であり、その組成別に、砂礫型土石流(流れが先端の石礫部と後続流に分けられ、先端に巨礫が集中して直進性があり、石礫部は停止しても比較的分散しない。堆積は層状を呈さない構造を示す。)、泥流型土石流(細流物質の含有量が高く、先端部に巨礫の集中をみない。流れは比較的導流しやすい。)、土砂流(土石流と洪水流の中間に位置し、多量の土砂を運搬し、広く分散して堆積することが多く、大きな被害をもたらすことが多い。)及び洪水流(掃流力によって細かい土砂礫が移動する流れ)に大別される(松村和樹ほか編著「土砂災害調査マニュアル」(鹿島出版会)一〇〇・一〇一頁)。
本件えん堤が決壊した場合に発生する土石流の形態については、埋め立てられる産業廃棄物が建設廃材等であることから、主に砂礫型土石流が想定されるが、本件最終処分場用地内の斜面には、砂質土、礫混じり砂、粘土質砂などから成る固結度の緩い地層が存在し、大量の降雨時には、これらの地層に雨水が浸透したものが土砂流ないし泥流型土石流となって流出する危険性もあるというべきである。
砂礫型土石流の場合、渓床勾配二〇度以上の区間で発生し、流下域は二〇度ないし一〇度で、一〇度付近から堆積を開始し、三度ないし四度で終息するが、泥流型土石流、土砂流の場合には、〇度まで堆積する場合もある(池谷浩著「土石流対策のための土石流災害調査法」(砂防・地すべり技術センター、山海堂)一五六頁)。
(甲第三、第九号証、乙第一八号証の三〇、第四九号証、弁論の全趣旨)。
② 土石流の堆積長については、昭和五一年九月に来襲した台風一七号による小豆島災害調査例から得た結果をもとに、小豆島及びこれに類似した地域における土石流危険区域設定の一手法として、流下部平均渓床勾配によって土石流流達範囲を推定する方式が建設省技官らによって提案された。
これは、土石流の縦断方向への堆積長は土石流の流下エネルギーに比例すると考え、流下部平均渓床勾配と土石流量との積として堆積長との関係を調べる方法であり、その算定式は次のとおりである。
logL=0.42log(tanθ×Qs)+0.935
(Lは土石流の堆積長、tanθは流下部平均渓床勾配、Qsは流下する土石流量である。)
(乙第四九号証)
③ 本件最終処分場南端から、舟平川との合流点を経て七瀬川との合流点に至る流下部平均渓床勾配は、次のとおりである(乙第四九号証、第五一号証の一ないし三、弁論の全趣旨)。
ア 本件最終処分場用地南端の治山ダム下流点から、処分場の谷と舟平川との合流点までの渓床勾配
同区間の距離 L=44.5(m)
同区間の標高差 EL=54.122(m)−51.850(m)=2.272(m)
同区間の渓床平均勾配(θ)
2.272(m)/44.5(m)×100≒5.1(%)≒1/19.6
θ=約2.9°
イ 舟平川合流点から七瀬川との合流点までの渓床勾配
同区間の距離 L=623.3(m)
同区間の標高差 EL=51.850(m)−34.554(m)=17.296(m)
同区間の渓床平均勾配(θ)
17.296(m)/623.3(m)×100≒2.77(%)≒1/36
θ=約1.6°
ウ 治山ダム下流点から七瀬川合流点までの渓床平均勾配
同区間の距離 L=44.5(m)+623.3(m)=667.8(m)
同区間の標高差 EL=2.272(m)+17.296(m)=19.568(m)
同区間の渓床平均勾配(θ)
19.568(m)/667.8(m)×100≒2.93(%)≒1/34
θ=約1.7°
④ 流下部平均渓床勾配による算定においては、土石流量は地形図、現地調査、過去の土石流量の記録等により総合的に決定され、原則として、流域内の移動可能土砂量(その流域で土石流化して流出する可能性のある山腹・河道堆積土砂量の全量)と運搬可能土砂量(土石流が発生した時点で、その流域の降雨により発生した洪水で運び得る土砂量)とを比較して、小さい方の値とする。
しかし、土石流の発生過程には、(1) 渓床堆積物が流水により強く侵食されて土石流になる形態、(2) 山腹崩壊土砂がそのまま土石流になる形態、(3) 山腹崩壊土砂が流れをせき止めて天然ダムを形成し、それが決壊して土石流になる形態などがあるところ、右のような土石流量の算定方法は、(1)の形態には当てはまるが、(2)や(3)の形態の場合には、右の算定方法のみならず、流域の特性を十分勘案して土石流量を算定しなければならないとされる(平成二年三月、大分県土木建築部砂防課編「砂防技術基準(案)」(以下「砂防技術基準」という。)五―三、五―六頁)。
本件では、多量の降雨時に、堆積された産業廃棄物が、本件最終処分場用地の山腹の軟弱地盤上の土砂等をも巻き込んで土石流を形成するという、右(2)の形態も含めた土石流の発生が考えられるところであり、土石流量の算定に当たっては、雨水による運搬可能土砂量のみならず、移動可能土砂量も考慮した算定を行うのが相当である(乙第四九号証、弁論の全趣旨)。
ア そこでまず、移動可能土砂量(Ve)については、渓床堆積土砂と崩壊土砂量との和として算定されるが、本件最終処分場においては、山腹や流下途中の渓床堆積土砂の確定は困難であり、また埋立完了時の産業廃棄物の全量が最も危険であるため、この数量を採用する(乙第四九号証)。
Ve=912,000(m3)
イ 運搬可能土砂量(Vec)は、降雨量(Rt)に流域面積(A)を乗じて総水量を求め、これに流動中の土石流の容積土砂濃度(Cd)を乗じて算定するものであり、その算定式は次のとおりである(砂防技術基準五―四頁)。
Vec=(103×Rt×A/(1−λ))×(Cd/(1−Cd))×fr
降雨量は、長時間確率降雨強度式による一〇〇年確率日雨量であり、砂防技術基準によれば、本件最終処分場の所在する野津原町には竹田市の一〇〇年確率日雨量が適用され、一日当たり511.2ミリメートルとなる。
流域面積については、本件最終処分場の施設内で土石流が発生した場合、右処分場の南端の治山ダムから発する谷部の地形等に照らし、その土石流は舟平川との合流点に達した後、舟平川沿いに七瀬川との合流点に向かって流下することが予想されるので、本件最終処分場の谷面積と、処分場の谷との合流点での舟平川の流域面積の合計0.55平方キロメートルとして算定する。
容積土砂濃度は、本件えん堤から上流側の最終天端までの平均勾配が約二五度であることから、Cd=0.9C*=0.9×0.6=0.54(C*=0.6程度)とする。
λは空隙率で、0.4程度とされ、frは流出補正率であり、流域面積を0.55平方キロメートルとすると、約0.31となる(算定式 fr=0.05(logA−2.0)2+0.05=0.31 砂防技術基準五―四頁)。
以上の数値を当てはめると、次のとおりとなる。
Vec=(103×511.2×0.55/(1−0.4))×(0.54/(1−0.54)×0.31≒167,943(m3)
(乙第四二、第四九号証、弁論の全趣旨)。
⑤ 以上の流下部平均渓床勾配、移動可能土砂量及び運搬可能土砂量を前記②の算定式に当てはめると、次のとおりとなる。
ア 移動可能土砂量による場合、流下延長は約三〇六メートルとなる。
logL=0.42log(tanθ×Qs)+0.935=0.42log(0.0293×167,943)=2.4857
L=305.99
イ 運搬可能土砂量による場合、流下延長は約六二三メートルとなる。
logL=0.42LOG(0.0293×912,000)=2.7943
L=622.78
⑥ なお、土石流の堆積幅は、流下部の平均河幅に対して最大五ないし六倍まで分散し、土石流が一度堆積して、後続する流水によって崩れた場合には、分散幅比が一〇倍程度になる。また土砂流の場合には、土石流より分散幅が拡大する傾向にある(乙第四九号証)。
⑦ ところで、土石流が土砂流を含む場合には、土砂流が流下部平均渓床勾配による堆積長式によって推定される土石流の流下延長の末端を超えて流達するものと想定され、実際の災害においても右末端を超える範囲まで到達するケースがある(乙第四九号証)。
(5) 原告らの居住地域の状況と本件最終処分場との位置関係
① 前記のとおり、本件最終処分場の南端の治山ダム下流点から舟平川との合流点までの谷状の流路と、七瀬川の合流点までの舟平川の流路の距離を合計すると、約667.8メートルであり、右七瀬川との合流点と、別紙図面四記載の第二原告らの居宅との位置関係は、次のとおりである(争いのない事実、甲第六一号証、乙第一号証の三、四、第五一号証の一ないし三)。
ア 原告河野広子の居宅は、七瀬川との合流点から北東方向約一〇〇メートル下流の河岸沿いにある。七瀬川は、別紙図面四のとおり、同原告の居宅の手前で流れを右に変えて蛇行しており、大量の降雨による七瀬川の増水、氾濫等の際に、同所の河岸がえぐられたこともあった。同原告の居宅のある小屋鶴地区と舟平川を隔てる尾根は、同人の居宅の西方約一〇〇メートルで途切れている。
イ 原告中畑伸二の居宅は、右合流点から東方約三〇〇メートル下流の河岸から、北方に約一五〇メートル離れた地点にあり、北西の本件最終処分場及び西方の舟平川とは尾根で隔てられている。
ウ また、原告小出信幸、同安井正彦、同斉藤勲、同小野俊三、同小野正美の各居宅は、別紙図面四記載のとおり、七瀬川の河岸から南方に約三〇〇メートル離れた公道に沿い、舟平川と七瀬川との合流点の東方約五〇〇ないし約一〇〇〇メートルの範囲内の、同川の河岸よりも若干高い場所に位置する。
原告小野寿美子の居宅は、右合流点から一〇〇〇メートル以上も上流の高台の上に、また原告神野昭吉、同利光勝俊、同宮本浅吉の居宅は、右合流点から東方の、直線距離にして約一六〇〇ないし約二〇〇〇メートル、七瀬川の流域沿いの距離にして約二五〇〇ないし約三〇〇〇メートルの範囲内にそれぞれ位置している。
② 第一原告らが居住する大分市緑が丘は、本件最終処分場とは山の尾根、大分中央ゴルフクラブのゴルフコース等で隔てられた、北側約七五〇メートル以北の地域にある(乙第一号証の四)。
(6) 以上の事実によれば、本件最終処分場から埋立てが完了した産業廃棄物等が流出した場合、建設廃材等によって形成される砂礫型土石流の末端が到達するのは、本件最終処分場南端の治山ダム下流点から舟平川途中までの約三〇六ないし約六二三メートルの範囲に止まるものと想定されるが、処分場内に集積した雨水によって流出した表層土、土砂等からなる土砂流ないし泥流の末端は、右範囲を超え、舟平川と七瀬川との合流点付近まで到達し、かつ処分場南端から続く谷の出口となる右合流点付近で拡散するおそれがあり、その際には、原告らのうち、右合流点の直近で、七瀬川下流の河岸沿いに居住する原告河野は、右土石流等の直撃を受け、これによる被害を被ることが想定されるということができる。
これに対し、原告中畑については、同原告の居宅に向う土石流が、西側の尾根によって遮られること、その余の第二原告らについては、本件最終処分場との距離や位置関係に照らし、予想される土石流の到達範囲内に居宅があるとは認められないこと、第一原告らについては、土石流の流下方向とは反対側の山地を隔てた地域に居住していることに照らし、いずれも土石流による直接的な被害が及ぶものと認めることはできない。
したがって、原告河野は、本件適合認定の無効確認を求めるにつき法律上の利益を有する者に当たるが、その余の原告らはこれに該当しないというべきである。
(7) なお、佐賀大学教授岩尾雄四郎の意見書(乙第四九号証)においては、本件最終処分場の産業廃棄物等が流出した場合の土石流の流下延長について、いかなる事故を想定しても、舟平川の中間程度で土石流は終息し、七瀬川まで流下することはないと述べられている。
しかし、岩尾教授の意見書では、流下部平均渓床勾配による土石流の流下延長について、188.4メートルと算出しているところ、右算定においては、移動可能土砂量の算定式に当てはめる流域面積について、本件最終処分場の谷面積である0.09平方キロメートルに限定し、舟平川の流域面積を考慮していないし、また同意見書では、急傾斜地崩壊様式による崩壊長の算定(がけ高の二倍程度)によっても、流下延長は約一八〇メートルであるとしているが、右方式は、がけ下が傾斜地でない場合に妥当するもので、本件のように大量の降雨時に崩壊した産業廃棄物、土砂等が流下し、谷地形の下り傾斜地を流下していくような場合に妥当するものではないと認められる。これらに加え、専ら砂礫型土石流のみを検討し、土砂流ないし泥流型土石流の発生及びこれによる被害の範囲について特に検討していない岩尾教授の意見書は、その限りでは採用することができない。
(8) 原告らは、原告安井、同小出についても、土石流の流下方向の直下に居住しており、大規模な土石流が発生すれば直撃を受ける可能性が高く、更に同中畑、同斉藤、同小野俊三、同小野正美についても、土石流の流下方向の下流域で、本件えん堤から直線距離で二〇〇〇メートル以内に居住しており、直接的な被害を受けると主張するが、前記認定したところに照らし、同人らの居住地域にまで右土石流の末端が到達するとは認められない。
(9) また原告らは、本件最終処分場の使用に伴う排水や、前記土石流災害が発生した際の産業廃棄物、有害物質等により、原告らの生活用水の水源が汚染され、深刻な健康被害を被るから、原告らはいずれも本件最終処分場の排水又は右土石流災害による直接的な被害を被るものとして、法律上保護された利益を有すると主張する。
しかし、本件最終処分場は、土壌、砂礫などと同様自然界にあって安定しており、環境を汚染しないものとされる安定五品目からなる安定型産業廃棄物を埋め立てる安定型最終処分場であり、適合認定の瑕疵が生活用水の汚染をもたらすとはいいがたいところである。確かに、本件最終処分場が設置されてから、本件えん堤、舟平川との合流点又は舟平川において水質検査が実施された結果、浮遊物質量、生物科学的酸素要求量などが、「水質汚濁に係る環境基準について」(昭和四六年環境庁告示第五九号)所定の基準値を上回っていることが判明している(甲第一三、第一五、第一六、第一九、第二二、第二三号証)。しかし、かかる水質汚染は、当該施設において使用開始後の維持管理の技術上の基準(新廃掃法一五条五項、新施行規則一二条の六第八号、共同命令二条二項二号、一条二項一六号)を遵守しなかったか、あるいは産業廃棄物処理基準等に適合しない埋立処分(いわゆる安定五品目以外の不法投棄、施行令六条一項三号ロ参照)がなされたことなどにより生じた可能性があり(本件最終処分場についてもかかる不法投棄のあったことが認められる(甲第六二号証))、周辺住民が、設置業者に対し処分場の使用の差止めを請求することができ、また都道府県知事による改善命令、措置命令の対象となり得る(新廃掃法一九条の三、四)のは格別、かかる水質汚染ないしその可能性が、当該処分場の使用前検査に基づく適合認定の無効確認等を求める訴訟について、周辺地域の住民の原告適格を基礎づけるものということはできない。
二 行政事件訴訟法三六条の消極要件の有無
なお、行政事件訴訟法三六条にいう当該処分の効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができない場合(消極要件)とは、当該処分に基づいて生ずる法律関係に関し、処分の無効を前提とする当事者訴訟又は民事訴訟によっては、その処分のため被っている不利益を排除するこができない場合はもとより、当該処分に起因する紛争を解決するための争訟形態として、右当事者訴訟又は民事訴訟との比較において、当該処分の無効確認を求める訴えの方がより直截的で適切な争訟形態であるとみるべき場合をも意味すると解されるところ(最高裁平成元年(行ツ)第一三一号同四年九月二二日第三小法廷判決・民集四六巻六号一〇九〇頁参照)、原告河野は本件最終処分場の設置者である被告補助参加人に対し、本件最終処分場の使用、操業等により人格権等を侵害されるおそれがあるとして、本件最終処分場の使用禁止を求める民事訴訟を提起しているが(当庁平成七年(ワ)第一八五号産業廃棄物処分場使用操業禁止請求事件)、右民事訴訟は、行政事件訴訟法三六条にいう当該処分の効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えには必ずしも該当せず、本件適合認定の瑕疵に起因する紛争を解決する争訟形態としては、無効確認訴訟の方がより直截的で適切なものというべきであるから、同原告の本件適合認定の無効確認の訴えは、行政事件訴訟法三六条の消極要件をも具備しているというべきである。
三 したがって、同原告は、本件適合認定の無効確認訴訟の原告適格を有すると認められる。
第四 本件適合認定における重大かつ明白な瑕疵の有無について
一 本件適合認定に至る経緯は、以下のとおりであると認められる。
1 本件えん堤の構造等
被告においては、本件適合認定における新廃掃法一五条二項一号、共同命令所定の技術上の基準の適合性の審査を、本件最終処分場の設置届の記載事項と、添付書類に基づいて行った。
右設置届によれば、本件最終処分場の構造、概要等のうち、本件最終処分場の主要な設備である本件えん堤は、三方からの谷が幅約二〇メートルの谷間に集中した箇所に設置され、高さ二〇メートル(標高八五メートル)、奥行約66.5メートルで、その法面の両端縦方向に、内幅・内高ともにそれぞれ六〇〇ミリメートル、四五〇ミリメートルの鉄筋コンクリート製のU字型側溝を設置し、一割八分の法面勾配で高さ約五メートルごとに幅約1.5メートル又は三メートルの小段(幅約三メートルの小段については、その横断方向に法面を流下した雨水を排出するU型側溝を設置する。)を交互に設けて法面の安定を図り、更にえん堤末端部にコンクリート製の法止工を設けることとしていた。
また、本件最終処分場内に降った雨水を排出し、本件えん堤の堤体の安全を図るため、えん堤底部の中央を縦に貫通する内径六〇〇ミリメートルの排水ヒューム管を敷設することとしていた。
その後、被告補助参加人は平成五年二月一二日、被告に本件最終処分場の使用前検査申請書を提出したが、その添付書類によれば、本件えん堤の奥行きは、より安全性を高めるため、91.3メートルに変更され、えん堤底部の排水ヒューム管の取水口も約三〇メートル上流側に移動し、ふとん篭を取り付けることとされた。
このようにして設置された本件えん堤の構造は、別紙図面五、六のとおりであった。
(乙第一八号証の二〇、第一九号証の一、一二、一三、第三八号証、第四五号証の三)
2 本件適合認定における被告の判断
被告は、本件適合認定に当たっては、前記設置届の内容の審査、使用前検査の結果等に基づいて、以下のとおり、本件最終処分場が新廃掃法一五条一項一号、共同命令所定の技術上の基準に適合すると認定した(争いのない事実、乙第一八号証の一ないし五五、第一九号証の一ないし二三、第三八号証、証人生野、弁論の全趣旨)。
(一) 地盤の滑りの防止(共同命令二条一項柱書、一条一項三号)については、本件最終処分場の設置場所が斜面であるため、設置場所及びその周辺について地滑りの有無を検討し、次の理由から、地盤の滑りを防止する必要はなく、雨水排水施設以外の特段の地滑り防止工は必要ないと判断した。
(1) 本件最終処分場は、地すべり等防止法に基づく地すべり防止区域及びがけくずれ防止法に基づく急傾斜地崩壊危険区域の指定がなされていないこと。
(2) 本件最終処分場は、大分川沿いに広く分布し、標高一五〇メートル程度の平坦面を形成している河岸段丘面と、これが河川の浸食により開析された山腹斜面からなる開析谷であり、地すべり地形に特有の等高線の変化は見られず、地すべり地でないこと。
(3) 本件最終処分場の主要構成地質は、新生代に属する碩南層群であり、地山は主に割れ目の少ない塊状の火山礫凝灰岩及び軽石凝灰岩からなり、地表部の表土及び崖錐堆積物等はN値二ないし六であるが、基盤は礫混じりの固結度の高いN値五〇以上を示す非常に密な地層であること。
(4) 数回にわたる現場踏査の結果、本件最終処分場用地、周辺地域に、地すべり地帯特有の亀裂や断層、破砕帯、軟弱層等が見当たらないこと。
(5) 本件最終処分場内でみられる斜面崩壊は、硬い岩盤の上にある0.5ないし一メートル程度のごく表層の剥離性のもので、「地すべり」に該当せず、本件最終処分場の埋立てに当たっては、これらをサンドイッチ工法のための覆土として利用するとされ、またもし斜面崩壊が生じても、本件最終処分場の地形、地質などから、本件最終処分場の機能を阻害する地盤の滑りに当たらないこと。
(二) 設備の沈下の防止(右同条項)については、本件最終処分場の主要な設備である本件えん堤下部のコクリート擁壁の施工後、数か月を経過しても、右擁壁の天端と、これを密着させている両側の岩盤との間に亀裂やずれを生じていないことから、沈下の兆しがなく、その沈下を防止する必要はないと判断した。
(三) 擁壁等に関する基準適合性(共同命令二条一項三号、一条一項四号イ、ロ)のうち、埋め立てる産業廃棄物の流出を防止するための「えん堤その他の設備」としては、本件えん堤が設置されているところ、被告は、本件えん堤について、構造計算を行わなかったが、次の事情を総合判断して、自重、土圧、水圧、地震力等に対して構造耐力上安全であると判断した。
(1) 本件最終処分場のような砂質土の場合は、通常三〇度以上のせん断抵抗角が得られ、かつ法面の傾斜角度がせん断抵抗角よりも小さい場合には、当該法面は安定であるというのが、土木工学上の基本的な考えであること。
(2) 本件最終処分場に埋め立てられる産業廃棄物は、建設廃材が主体で、コンクリート塊のかみ合わせ等により、更に大きなせん断抵抗角が得られること。
(3) 基礎地盤が十分な強度を有していること。
(4) 本件えん堤の勾配が、一対1.8(法面勾配約二九度)であり、高さ五メートルごとに小段が設けられていること。
(5) 堤体の構造は、軽石凝灰岩を用いた均一型のえん堤であること。
(6) 本件えん堤の基礎地盤は、碩南層群の凝灰岩であり、十分な支持力を有するので、基礎地盤を含むような堤体のすべりはないこと。
(7) 本件えん堤は、十分な排水能力を有する排水管が設置されており、水を溜める構造ではないので、水圧を荷重及び外力として採用する必要はないこと。
(8) 積雪地帯ではないこと及び本件えん堤の構造に照らし、積雪荷重及び風圧力を、「その他の荷重及び外力」として採用する必要はないこと。
(9) 本件えん堤下部のコンクリート擁壁は、被告補助参加人が被告に提出した平成三年一〇月三一日付林地開発許可申請書の添付書類によって確認された構造計算結果及び材質から判断して、安全であると判断されたこと。
(四) また、コンクリート製法止工付近の浸出水及び土壌は、その水素イオン濃度指数により、強酸又は強アルカリではなく、埋め立てるのが安定型産業廃棄物であることから、擁壁等の腐食防止のための措置は不要であると判断した。
(五) 囲い(共同命令二条一項柱書、一条一項一号)については、設置届、使用前検査等により、本件最終処分場の道路及び民家に面する位置に設置され、力を強く加えても揺れず、人によって容易に破壊されるおそれがないこと、材質は鉄板等であることから人が通り抜けられない構造であること、高さは0.9ないし六メートルを有し、埋立地の周囲のうち本件えん堤、斜面等の人がみだりに立ち入ることができない地形である場所以外には全て設けられていることを認め、基準に適合することを確認した。
(六) 表示(共同命令二条一項一号)については、設置届、使用前検査等により、本件最終処分場の入口付近に、共同命令様式第二に従った適正な表示が設けられていることを確認した。
3 本件えん堤の排水処理能力についての被告の判断
(一) 安定型最終処分場に係る新廃掃法一五条二項一号の技術上の基準の一つは、水圧に対して構造耐力上安全な擁壁等が設けられていることであるから(共同命令二条一項三号、一条一項四号イ)、① 擁壁等が、その内側に溜まった水の圧力(静水圧)によって、転倒し、滑り、又は崩壊するおそれがないか、② 最終処分場に溜まった水が、擁壁等、特に土えん堤に浸透し、崩壊するおそれはないかという二つの観点から、安全性を判断する必要がある(弁論の全趣旨)。
本件最終処分場については、本件えん堤内底部のヒューム管が、右処分場内の雨水を集水して排出し、本件えん堤に対する水の圧力を緩和し、本件えん堤の決壊による産業廃棄物の流出を防止するための防災施設として計画され、設置されたものである(乙第一八号証の二七)。
(二) 雨水集排水施設の計画・設計に当たっては、雨水流出量を算定し、これに対応できる水路を設計することとされ、その排水処理能力の評価の基礎となる雨水流出量及び水路断面は、別紙「排水処理能力計算式」記載の方法で求められる(社団法人全国都市会議発行、厚生省水道環境部監修「廃棄物最終処分場指針解説」(以下「最終処分場指針解説」という。)九三頁以下、乙第四一号証)。
また、排水施設の安全率(排水設備の流水能力を雨水流出量で除したもの)は、長期における排水管内での土砂等による閉塞を考慮して、一〇ないし二〇パーセント程度の排出能力の余裕をみることとされ(最終処分場指針解説)、あるいは地形、地質等の立地条件を十分勘案して、土地利用の状況に応じ、排水等能力を長期にわたり保障する見地から、安全率を二割上乗せした1.2程度を見込むのが相当であるとされている(林地開発許可申請の手引)。
(三) 本件適合認定においては、本件えん堤の排水処理能力について、以下のとおり判断された。
(1) 流出係数については、林地開発許可申請の手引を参考に、集水区域内を植生により次のとおり分類し、それぞれの流出係数を、面積を加重平均して、0.71と算出した(乙第一八号証の一九、弁論の全趣旨)。
分類 係数 面積
① 残地森林(林地) 0.6 2.75ヘクタール
② 法面部(草地) 0.7 2.59ヘクタール
③ 天端(裸地) 0.8 3.69ヘクタール
(2) 降雨強度の算定要素のうち、降雨確率年は、林地開発許可申請の手引によれば、コンクリートダムの余水吐等の重要工作物について一〇〇年確率雨量、洪水調整池等の排水が集中される構造物にあっては三〇年確率雨量、その他の排水施設については一〇年確率雨量を適用することとされ、また最終処分場指針解説によれば、一〇年ないし一五年程度の降雨確率年数を採用するとされているところ、本件最終処分場の排水施設は、「その他の排水施設」であるから、降雨確率年は一〇年とした。そして、本件最終処分場の設置場所である野津原町における降雨確率年数一〇年、集水面積五〇ヘクタール以下の降雨強度は、林地開発許可申請の手引所定の基準に基づいて算定すると、毎時108.9ミリメートルであるが、被告補助参加人が用いた値に従い、より安全度の高い毎時120.4ミリメートルを降雨強度とした(乙第一八号証の一六、一九)。
(3) 集水面積について
本件最終処分場の集水面積については、同処分場の周辺の尾根等で囲まれた部分をデジタルプラニメーターで計測し、9.03ヘクタール(別紙図面三のA、B、C、D区域の合計面積)と判定した(乙第一九号証の二三、第四三号証、証人生野)。
(4) 雨水流出量、安全率について
右(1)ないし(3)の要素を、別紙「排水処理能力計算式」記載の雨水流出量算定式(ラショナル公式)に当てはめて算出した雨水流出量は、毎秒2.14平方メートルとなり、本件最終処分場に設置された排水ヒューム管の流水能力が毎秒2.68立方メートルであるから、安全率は1.25となり、安全であると判定した(乙第一九号証の二三)。
(四) なお被告は、本件適合認定の際、本件えん堤法面両端のU字型側溝の排水処理能力について、特段の検討をしていない(乙第一九号証の二三、第三八号証、弁論の全趣旨。被告は地表水による水圧について表面排水溝等も考慮したと主張するが、厳密な安全率の検討は行っていないと認められる。)。
二 地盤の滑りの防止についての被告の判断の適否
1 共同命令二条一項柱書、一条一項三号が、安定型最終処分場の設計許可、使用前検査に係る技術上の基準として、地滑り防止工を定めた趣旨は、埋め立てられた産業廃棄物を安全に貯留する機能が阻害されるのを防止することにある。したがって、右条項にいう「地盤の滑り」ないし「地滑り」とは、地すべり等防止法二条一項にいう「地すべり」、すなわち土地の一部が地下水等に起因してすべる現象及びこれに伴って移動する現象だけではなく、これを含む広範な地盤の変動を含み、地盤の一部が種々の原因に基づいて安定を失って滑動し、これによって最終処分場の貯留機能その他の機能を阻害するに至るものをいうと解するのが相当である。
本件適合認定が行われた当時、本件最終処分場用地は、急傾斜地を多数含む傾斜地によって囲まれた谷状の地形の土地であり、またその地盤は、密度がゆるく透水性の高い表層土が、固結度が高く透水性の低い碩南層群の上に載っている二層構造であった。そして、大量の降雨時には、表層土に浸透した雨水が基盤部分で地盤への浸透を阻まれ、表層土と地山部分の境に沿って流下することによって、表層土が流動化し、処分場用地の大部分が集水域であること、同用地内の森林が伐採されてほぼ裸地となり、保水機能、地盤保持機能等が失われたことと相まって、表層崩壊が発生し易い状態にあり、現に、本件最終処分場内の投棄口直下に崩壊跡が存在し、また、治山ダム東側斜面に表層崩壊部分が、本件最終処分場外の北西部の斜面に地すべり性ブロック、表層崩壊部分がそれぞれ存在し(もっともこれらは集水域外にある(甲第三号証))、更に谷頭部の地盤の一部が処分場中央部の方向へと変動している。
加えて、本件適合認定時の埋立計画どおり、サンドイッチ工法により九一万二〇〇〇立方メートルの産業廃棄物を埋め立て、長大な法面が形成された場合には、本件最終処分場用地の地形、地盤、地質、産業廃棄物の工学的性質、雨水の浸透、排水処理設備の機能の低下等の事情からみて、斜面の安定の維持に相当な困難を伴うことになると思われる。
2 ところで、被告が、本件最終処分場について、地すべり防止区域等の指定がないこと、現状で地すべり地形ではないこと、基盤が固結度の高い密な地層であること、本件最終処分場の斜面崩壊が0.5ないし一メートル程度の表層の剥離性のもので、「地すべり」に該当しないことをもって、本件適合認定の根拠とした判断は、共同命令にいう「地盤の滑り」ないし「地滑り」を、地すべり等防止法にいう「地すべり」の意味に限定する見解を前提とするものであると認められる(乙第三八号証、証人生野)が、前記認定判断によれば、「地盤の滑り」ないし「地滑り」をそのように限定して解釈することは妥当でないというべきである。
また、表層土をサンドイッチ工法のための覆土として利用することについては、サンドイッチ工法の施工時の一般的な工法というにとどまり、そのことを被告から生活環境の保全上の必要な条件(新廃掃法一五条三項)などとして具体的に指示したものではないと認められ(証人生野)、また前記認定のとおり、右表層土の下にもN値が低く、相対密度が「ゆるい」の範囲にある、礫混じり砂又は粘土質砂から成る地層が存在する。
3 以上認定判断したところによれば、本件最終処分場については、本件適合認定当時の埋立計画に従った埋立処分の途中又は完了後において、地盤の一部が安定を失って滑動し、産業廃棄物の貯留機能が失われるに至る危険性が疑われるというべきである。
三 本件えん堤の安全性について
1 擁壁等の構造耐力上の安全性に関する技術上の基準については、荷重及び外力として自重、土圧、水圧、地震力を、更に埋立地の状況に応じて積載荷重、積雪荷重、風圧力等を採用して、擁壁等の構造計算(静的設計計算をいう。)を行い、安全性を確認することが必要である(留意事項Ⅲの4、Ⅰの6)。
ところで、被告は本件適合認定において、本件えん堤の構造計算をしていないので、本件適合認定があった当時における本件えん堤の構造等を前提として、まずその排水処理能力を検討して、水圧に対する構造耐力上の安全性について考察するとともに、本件えん堤の構造計算を行い、その安全性について検討することとする。
2 本件えん堤の排水処理能力について
(一) 本件えん堤の排水処理能力については、別紙「排水処理能力計算式」記載の方法により計算するのが一般的であるから、これにより本件えん堤底部の排水ヒューム管の排水処理能力を検討するが、各因子についての数値は次のとおり設定するのが妥当である。
(1) 集水面積については、別紙図面三のD区域の雨水が、より上流側にある排水ヒューム管の呑み口に導水されることはないこと、またB、C区域の雨水については、本件えん堤の天端各部に別紙図面六記載のとおり標高差があって、C区域からB区域方向にかけて約二度の下り勾配となっており、別紙図面三記載のとおり、素堀側溝の底面に栗石を敷設し、B区域及びC区域の雨水をともに本件えん堤法面東側のU字型側溝に導水するための導水路が設置されていたことから、両区域の雨水はすべて右U字型側溝に流入し、本件えん堤上流側下部に設置された排水ヒューム管の呑み口には導水されないこと(乙第一九号証の一二、第四五号証の三、第四三号証。原告河野は、本件えん堤の天端部には何らの導水路もなく、乙第四五号証の三の見取図は事実と異なると主張するが、前記各導水路の存在は、平成五年三月二六日の使用前検査時に確認されている(乙第五〇号証)ほか、京都大学防災研究所教官中川鮮による同年四月一六日の現地調査の際にも確認されており(甲第三号証の添付写真4)、右主張は採用することができない。)から、本件えん堤の排水ヒューム管の集水面積としては、別紙図面三記載のA区域の5.58ヘクタールと考えるのが妥当である。
(2) 流出係数については、本件適合認定当時における被告補助参加人の埋立計画によれば、A区域はほぼ裸地になることが認められるので、0.9を採用するものとする(争いのない事実、乙第一九号証の一四、第四一号証)。
(3) 降雨確率年については、前認定の事実に証拠(乙第一八号証の一六、一九、四二、証人中川)及び弁論の全趣旨を総合すると、本件えん堤が、埋立完了時において九一万二〇〇〇立方メートルに及ぶ工学的性質の不明な産業廃棄物の流出を防止するための唯一の設備であること、砂防ダム工の流路工は一〇〇年確率雨量を適用するとされること(砂防技術基準三―二頁)、本件最終処分場の設置が、急傾斜地を含む谷状地に、林地開発行為としてされ、その際樹木の伐採により保水力等が失われ、集水区域内の降雨が短時間で本件えん堤に到達し得ること、被告補助参加人が設置届提出段階での雨水流出量の計算において一〇〇年確率雨量を採用したことが認められ、これらの事実に照らすと、林地開発許可申請の手引にいうコンクリートダム等の余水吐などの重要工作物に準じるものとして、一〇〇年確率雨量を適用することとする。
そして、野津原町における流域面積五〇ヘクタール以下の単位時間当たりの一〇〇年確率雨量は、154.7ミリメートルである(林地開発許可申請の手引九〇頁)。
(4) 右(1)ないし(3)の数値を、前記雨水流出量算定式(ラショナル公式)に当てはめると、次のとおり、雨水流出量は毎秒約2.16立方メートルとなり、安全率は約1.24となって、本件適合認定で被告が判定した安全率とほぼ等しくなる。
Q=1/360・C・I・A=1/360×0.9×154.7×5.58=2.158(m3/sec)
2.682/2.158=1.243
(二) なお、本件適合認定があった当時の本件えん堤の水圧に対する安全性を検討する際には、えん堤法面の東側に設けられたU字型側溝の排水処理能力も検討する必要があると解される。
(1) まず、雨水流出量については、集水面積を別紙図面三のA、B、C区域の合計8.51ヘクタールとし(埋立前の段階ではB、C区域からの雨水を想定すればよいが、本件適合認定にあたっての埋立計画によれば、埋立ての進行に伴ってA区域からの雨水が流入することが予想される。)、流出係数を0.9、一〇〇年確率雨量として算定すると、毎秒約3.29立方メートルとなる。
Q=1/360・C・I・A=1/360×0.9×154.7×8.51=3.291(m3/sec)
(2) U字型側溝の流下能力については、以下のとおり、毎秒5.579立方メートルとなる(乙第一八号証の一九、第一九号証の一二、第四八号証)。
① 流下能力の算定式
Q=A×V
V=(1/n)×R2/3×T1/2
Q=A/S
(Aは側溝断面積、Vは流速、nは粗度係数、Rは径深、Tは勾配、Sは側溝の断面方向長さ(側溝の縦幅長に二を乗じたものと横幅長との合計)である。林地開発許可申請の手引一〇〇頁以下)。
② 算定式
断面積 A=0.36(m2)
径深 R=0.36/1.8=0.2
水面勾配 T=20(m)/49.7(m)=40.2(%)
粗度係数 n=0.014(U字型溝の粗度係数)
流下能力 Q=A×V=0.36×(1/0.014×0.22/3×0.4021/2)=5.579
(3) したがって、安全率は約1.7となる。
5.579/3.291=1.695
(三) 以上より、本件適合認定があった当時、本件えん堤の主要な排水施設である底部中央部の排水ヒューム管及び法面東側のU字型側溝は、いずれも1.2を上回る安全率を有しており、本件えん堤は、その構造計算に当たって、水圧を荷重及び外力として採用する必要のない排水処理能力を備えていたものというべきである。
原告河野は、本件最終処分場の雨水流出量は、右排水ヒューム管の通水能力を超えているので、本件えん堤は排水処理能力の点で欠陥施設であり、右欠陥に起因して、本件適合認定があったのち、本件えん堤の一部が決壊したものであると主張する。しかし、同原告が主張する雨水流出量は、集水面積を別紙図面三のA、B、C区域の合計である8.51ヘクタールとしていることから採用することができないし、本件えん堤の一部決壊の原因は、排水ヒューム管の呑み口に設けられたふとん篭が、枯れ木、堆積土によって通水を遮断されたため、法面東側のU字型側溝にその流下能力を超える雨水が集中したことにあり、被告補助参加人が本件えん堤の排水施設に関する維持管理を怠ったこと(共同命令二条二項二号、一条二項七号参照)によって生じたことが認められ(乙第二六号証の一、第二七号証)、排水処理能力の欠陥によるものではないから、右主張はいずれも理由がない。
また同原告は、本件えん堤の排水処理能力は、今後埋立てが進行するにつれて破綻することが明らかであると主張しているところ、確かに埋立ての進行に従い、本件えん堤の排水施設の機能が十分発揮できなくなる可能性があるが(甲第五八号証)、このような将来の埋立ての進行に応じた排水設備の改善は、本件最終処分場の維持管理が、新法一五条五項、共同命令二条二項二号、一条二項七号所定の技術上の基準に適合しているかどうかの問題であり、本件適合認定の対象となるものではなく、右主張も理由がない。
3 本件えん堤の構造計算について
(一) 本件えん堤の構造計算については、平成六年五月から七月にかけて、応用地質株式会社(以下「応用地質」という。)がこれを実施している。
応用地質は、本件えん堤の堤体の基礎地盤が、N値五〇以上の碩南層群の凝灰岩であることから、基礎地盤を含む堤体のすべりはないものとして、主として土えん堤の盛土が円弧状に滑る可能性について検討し、次のとおりの構造計算を行った(甲第五八号証、乙第四七号証、弁論の全趣旨)。
(1) 擁壁等の構造計算及び安全率については、共同命令及び留意事項に定めがなく、廃棄物最終処分場指針(社団法人全国都市清掃会議・昭和六三年六月制定)にも明記されていないが、一般的に、堤体の種類に対応する既存の設計基準に準拠して行うこととされているところ、堤体の構造計算については、斜面安定解析法、すなわち地すべりに抵抗する力と、地すべりを起こそうとする力の比によって、堤体の安定計算を行う方法による必要があり、そのうち最も広く採用されているのは、地すべり斜面をいくつかのスライスに区分し、各スライスごとの力関係を明らかにして、その各スライスの個々の力を合計することで全体の力関係を評価する方法(分割簡便法)である。
右方法による安定計算式については、堤体の性質、規模等によって若干異なるものがあるところ、応用地質による構造計算においては、本件えん堤の堤体が盛土であることから、土地改良事業計画設計基準(農林水産省構造改善局・平成元年四月制定)所定の基準に準拠し、次のとおりの斜面安定解析法の計算式によることとされた。
① 常時安全率
Fs=∑(c・1+W・cosθ・tanφ)/(∑W・sinθ)
(Fsは安全率、cは各スライスの滑り面における土の粘着力、φは各スライスの滑り面における土の内部摩擦角、1は各スライスの滑り面の長さ、Wは各スライスの土の全重量、aは各スライスの滑り面平均傾斜角である。)
② 地震時安全率
Fs=∑{c・1+(N−U−Ne)tanφ}/∑(T+Te)
(Nは各スライスの滑り面上に働く荷重合力の垂直分力、Tは右荷重合力の接線分力、Neは各スライスの滑り面上に働く地震荷重の垂直分力、Teは右地震荷重の接線分力、Uは各スライスの滑り面上に働く間隙圧である。)
(2) 右斜面安定解析計算においては、地すべりを起こそうとする力としての、土の自重や地下水によって生じる間隙水圧、地すべりに抵抗する力としての、土の剪断抵抗力が計算される。土の剪断抵抗力は、土の粘着力と摩擦抵抗の大きさによって規定され、摩擦抵抗の大きさは、当該斜面にかかる垂直応力(土の重さが斜面の垂直方向にかかる力)に摩擦係数を乗じて算定され、摩擦係数は内部摩擦角によって定まる。
したがって、分割簡便法による構造計算においては、湿潤密度(一立方センチメートル当たりの土の重量)、粘着力、内部摩擦角から成る土質定数の設定が必要となるところ、本件えん堤の室内土質試験の結果は、次のとおりであった。
湿潤密度 1.738〜1.786g/cm3
粘着力 0.45〜0.59kgf/cm3
内部摩擦角 40.09〜41.38°
右室内土質試験の結果を参考として、埋立処分土(廃棄物盛土)及び本件えん堤の盛土材について、それぞれ次のとおり土質定数を設定した。なお、本件えん堤の盛土材の土質定数については、盛土のクリープ破壊などを勘案して、前記室内土質試験結果の数値をより安全なものに補正して設定したものである。
湿潤密度(g/cm3) 粘着力(f/cm3)内部摩擦角(°)
廃棄物盛土材 1.80 0.0035
えん堤盛土材 1.75 0.0035
(3) 設計震度については、「建設省河川砂防技術基準(案)設計編[Ⅰ]」
(建設省河川局監修)所定の基準により、0.16、上載荷重は、埋立完了後の跡地に将来構造物が築造される可能性を考慮し、安全を考慮して1.0t/m2と設定した。
(4) 以上の条件に従い、本件えん堤盛土部分及び廃棄物盛土部分についてスライス面を設定し、堤体安定計算を行った結果、得られた安全率は次のとおりである。
えん堤盛土 えん堤盛土及び廃棄物盛土
常時安全率 1.526 1.516
地震時安全率 1.045 1.040
(二) 前記土地改良事業計画設計基準では、農道の法面の盛土の安全率について、許容安全率は原則として1.20以上、ただし地震時許容安全率は1.0以上によることとされているところ、応用地質による前記堤体安定計算の結果は、常時安全率、地震時安全率ともに右基準を上回っている(甲第五八号証、乙第四七号証)。
この点、原告河野は、① 応用地質による廃棄物盛土の土質定数の設定は、多種多様な廃棄物の性質の検討を怠った恣意的なものである、② スライス面の設定が少ない、③ 本件最終処分場の地震時の許容安全率は1.2とすべきであると主張する。しかし、応用地質の前記安定計算においても、えん堤盛土材の土質試験結果より安全なものに廃棄物盛土の土質定数が設定され、かつ最大斜面の最も危険な部分にスライス面が設定されたこと(甲第五八号証、弁論の全趣旨)、また本件最終処分場の位置は、人家との距離関係からして、地震時許容安全率が1.2以上と設定される人家の密集地帯に当たらないこと(乙第一号証の四)に照らし、右主張を採用することはできない。
(三) なお、本件えん堤の法面及び埋立完了時の法面が長大な斜面であることから、右斜面の安定計算が必要となるところ、粘着力のない土で浸透流のない場合、斜面の傾斜角βが盛土材料の内部摩擦角φより小さければ、滑り出すおそれはなく、安全率Fsは次のとおり算定される。
Fs=tanφ/tanβ
前記のとおり、本件えん堤の盛土材である軽石凝灰岩の内部摩擦角は40.09ないし41.38度であり、法面勾配は一対1.8(約二九度)で、右算定式より安全率は1.38ないし1.42となる。廃棄物盛土の内部摩擦角については、構成材料が安定型産業廃棄物で、建設廃材が主体となることから、軽石凝灰岩よりも大きな内部摩擦角が得られる一方、埋立処分される産業廃棄物に多種多様なものが含まれ、その工学的性質に確定し難い要素もあることからすると、前記応用地質の土質定数の設定と同じく、より安全なものに補正した三五度に設定するのが相当であり、そうすると廃棄物盛土法面の安全率は1.20となる。したがって、本件えん堤の初期盛土及び埋立完了時の廃棄物盛土のいずれも法面の安定は確保されることになる(乙第四七号証、弁論の全趣旨)。
(四) 応用地質による本件えん堤盛土の土質試験結果は、平成六年五月ないし七月にかけてのものであるが、本件適合認定時と比較すると、本件使用停止・改善命令後に、排水施設の構造が変更されたのみで、盛土の材質自体には変更はなかったことが認められる(甲第五八号証、乙第三八号証、第四五号証の三、弁論の全趣旨)ので、本件適合認定当時の本件えん堤の構造計算にも妥当するものであると解される。
したがって、本件えん堤は、本件適合認定のあった当時、構造計算を行ったとしても、自重、土圧、地震力に対して、構造耐力上十分な安全性を有していたものというべきである。
この点、原告河野は、本件えん堤が水による侵食に対して脆弱なもので、特に大量の降雨時には、地形からして用地外の雨水も処分場内に流れ込んで、えん堤部分が侵食されるおそれがあったとするが、前記のとおり、本件適合認定当時の本件えん堤の排水処理能力は十分な安全性を有しており、また被告補助参加人の設置届出当時の埋立処分計画によれば、埋立部分側部に余水捌を設置し、施設外からの雨水の流入を防止するとされていたことが認められ(乙第一八号証の二五)、右主張を採用することはできない。
四 本件適合認定における無効原因の有無
1 以上認定判断したところによれば、被告の本件適合認定には、共同命令にいう「地盤の滑り」又は「地滑り」を、地すべり等防止法にいう「地すべり」に限定し、地盤の滑りを防止する必要はないとした点において、地滑り防止工を安定型最終処分場の使用前検査に係る技術上の基準として定めた法の趣旨にそぐわない部分があったことは否定することができない。
しかし、前認定のとおり、地すべり性ブロック等が集水域外にあったこと、使用前検査の結果によれば、明らかな表層崩壊部分が層圧0.5ないし一メートル程度のものにとどまっていたことなどを考慮すると、右地滑り防止工についての判断が不相当であったことのみをもって、本件適合認定に重大かつ明白な瑕疵があったということはできない。
2 そして、本件適合認定のあった当時、本件えん堤に十分な安全率を有する排水施設が設置されていたこと、本件えん堤の基礎地盤、剪断抵抗力、盛土の土質などを総合すると、構造計算を行っても、自重、土圧、地震力等に対して構造耐力上十分な安全性を有するものであったことが認められ、これらを総合すると、被告が本件適合認定において、構造計算を省略して、本件えん堤が構造耐力上安全であると判断し、また排水ヒューム管の通水能力と雨水流出量に対する安全率のみを検討して、本件えん堤が十分な排水処理能力を有し、水圧を荷重及び外力として採用する必要はないと判断したことに、重大かつ明白な瑕疵があったと認めることはできない。
3 なお、原告河野は、被告が本件適合認定に当たって、安定型最終処分場の周辺地域における地下水、生活用水等の汚染の問題について何ら審査をしなかったことは違法であると主張するが、前記のとおり、安定型最終処分場に係る公共の水域及び地下水の汚染の問題については、使用前検査に基づく適合認定の要件たる技術上の基準としては、これを防止する措置について何ら規定しておらず、ただ維持管理の技術上の基準に違反するかどうかが問題となるに過ぎないから、右主張は採用することができない。
また同原告は、本件最終処分場の設置に先立つ民有林の伐採及び林地開発許可、国有水路敷地の用途廃止に関する被告補助参加人の脱法行為とこれに対する被告の黙認の事実を主張するが、前記のとおり、本件最終処分場が新廃掃法一五条二項一号、四項及び共同命令所定の技術上の基準に適合するかどうかについて、被告の認定に重大かつ明白な瑕疵を認めることができない以上、右脱法行為の存在のみをもって本件適合認定に重大かつ明白な違法があったということはできず、主張自体失当である。
第五 本件義務づけ訴訟の適法性
行政事件訴訟法は、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟として、同法三条に掲げる類型のもの以外を禁じているとは解せられないものの、このうち義務づけ訴訟が許されるには、少なくとも、① 行政庁が処分をすべきかどうかについて法律上覊束され、行政庁に自由裁量の余地がないなど、第一次判断権を行政庁に留保することが必ずしも重要でないこと(明白性の要件)、② 義務づけ訴訟を認めないことによる損害が大きく、事前救済の必要性が顕著であること(緊急性の要件)、③ 他に適切な救済方法がないこと(補充性の要件)の三要素を充足する必要があると解するのが相当である。
しかしながら、本件義務づけ訴訟は、被告に対し新廃掃法一五条の三に基づく本件みなし許可の取消しを命じる訴訟であるところ、原告河野を除く原告らについて、原告適格がないことは、本件適合認定についての無効確認訴訟において判示したのと同様であり、また原告河野については、本件適合認定の無効の主張が理由のないことは前示のとおりであり、ことに右規定は、産業廃棄物処理施設の構造又はその維持管理が、同法一五条二項一号又は五項所定の技術上の基準に適合していないと認められるときに、右施設に係る設置許可の取消し、改善又は使用停止命令のうちのいずれの処分をするかどうかについて、都道府県知事に効果裁量を認めていることに照らし、本件義務づけ訴訟は前記明白性の要件を充足しているとは認められないというべきであり、したがって、本件義務づけ訴訟はいずれも不適法である。
第六 結論
以上によれば、原告河野広子の予備的請求は理由がないからこれを棄却し、同原告のその余の訴え及びその余の原告らの訴えはいずれも不適法であるから却下することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民訴法六五条一項本文、六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官山口信恭 裁判官大西達夫 裁判長裁判官菊池徹は、転補のため署名押印することができない。裁判官山口信恭)